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医薬品原薬の大量製造プロセスを開発

大学院の化学応用学専攻を修了した島麻由美さんの勤務先は、医薬品の主成分となる「原薬」などを製造するスペラネクサス株式会社。在学中に所属した有機合成化学研究室での経験が、ダイレクトに現在の業務に活かされているとお話する島さんに、具体的な業務内容や日々感じているやりがいなどをお聞きしました。

スペラネクサス株式会社
合成技術研究部 研究職 島 麻由美さん

入社7年目 / 研究職 / 化学応用学専攻修了 / 有機合成化学研究室(指導教員:先進工学部生命化学科 南雲 紳史 教授 )/ 工学院大学学生自治会 /趣味:散歩、料理、音楽鑑賞
                  ※掲載内容は取材当時のものです。

Q1.スペラネクサス株式会社ではどのようなお仕事をされていますか?

主な業務は、医薬品の主成分となる原薬を大量生産するために必要な製造プロセスを開発することです。まずは初期段階として、「ラボ検討」と呼ばれる小スケールでの合成実験を行います。フラスコ容器などで行うもので、数100mLから大きくても5L程度です。合成条件などの製法が決まったら、段階的にスケールを大きくしていき、最終的に工場で大量に製造する「本製造」では、4000Lから1万L規模で原薬を製造します。

Q2. 現在の職業を選んだ理由は?

高校時代も大学入学当初も有機化学は得意科目とはいえませんでしたが、南雲先生の授業をきっかけに、有機化学が面白いと思うようになりました。授業はとてもわかりやすく、先生ご自身がとても楽しそうに説明をしてくれるので、私自身も楽しさを感じられるようになりました。更に、有機合成を用いた原薬の製造が、医薬品の低コスト化につながる可能性などを知り、有機合成の道に進みたいと思うようになりました。

Q3.学生時代の研究と現在の業務との違いや共通点を教えてください。

大学での研究は、合成されていない物質を初めてつくるために、さまざまな試薬や溶媒を試しながら一つずつコツコツと条件を決めていくものでしたが、現在は、大量生産のための方法を確立することが目的です。めざす目的は違いますが、現在もフラスコ等の実験器具を使って合成実験を繰り返す毎日ですので、学生時代の経験がそのまま活かされていると感じます。

Q4. 仕事のやりがいや魅力は?

幅広い知識が必要となりますが、小スケールでのラボ検討から、工場で大きな反応缶を使用する本製造まで、幅広い業務に携わることができ、やりがいを感じます。
一方で、反応の温度や時間などの細かい条件を小スケールで決めたものの、量を増やすことで想定していた結果が得られなくなったり、新たな問題が生じたりする大変さもあります。スムーズに検討が進まないと落ち込むこともありますが、そのようなときは、散歩をする等、リラックスをして気持ちを入れ替えています。

Q5. お仕事をする上で注意していることは?

ラボ検討と本製造で使用する製造設備が異なるケースがあるため、思わぬトラブルが起きないよう、あらかじめ本製造での設備を確認します。例えば、本製造でステンレス製の機材を使わざるをえないのであれば、ラボ検討でステンレスが使用できるかを確認します。
また、お客様のスケジュールに合わせて進めていく必要がありますので、厳格なスケジュール管理を心がけています。

Q6. 現在の仕事で必要と感じているスキルや能力は?

合成による製造が基本ですので、有機化学の知識は必須です。また、合成後に不純物ができてしまう場合もあるため、「NMR」や「HPLC」という分析機器を日常的に使用していて、構造確認や品質確認のための分析化学の知識も必要になります。
その点、在学中の「分析化学」では、分析機器の基礎知識を学び、「NMR」は研究室でも使用経験がありました。初めて使う機器の操作方法や、得られたデータの解析方法は入社後に教わりましたが、さまざまな分析手法の存在や、分析機器の原理は在学中に勉強したので、スムーズに理解することができました。

Q7. 仕事の中で、大学で学んだことが活かされていると思うことはありますか?

南雲先生の有機合成化学研究室で合成実験を重ねた経験のすべてが、現在の仕事に活かされています。「有機化学」で有機合成を行うための基礎知識を身につけて、その内容をベースにして実際の薬の合成経路を学んだのが「創薬化学」です。研究室では、天然の原料から殺虫活性のある物質の合成をめざすなど、天然物の全合成研究を通して、有機合成実験や分析の知識を深めることができました。
入社後は、ディスプレイ材料などの「化成品」も扱っていますが、合成によって目的の構造をもった物質をつくり出すという点では、薬をつくるのも化成品をつくるのも大きな違いはないと感じています。

Q8. 就職活動のときに意識したことは?

面接での自己アピールには苦手意識がありましたが、就活対策の本で「短所は長所に言い換えられる」という一文に出会ったことで、「マイペース」や「作業が遅い」といったネガティブな自分の性格を、「慎重」「丁寧」というポジティブワードに変換する術を知りました。それ以来、自分の長所として自信を持つことができ、面接でもアピールできるようになりました。
また、現在の勤務先ではありませんが、化学メーカーのインターンシップに参加した際に研究施設の見学を行いました。そこで、研究職として働くイメージを深めることができたので、みなさんにもおすすめしたいです。

Q9. 今後の夢や展望を教えてください。

入社7年目となって、後輩に仕事の進め方のほか、専門的な知識や技術を教える機会が増えてきました。「自分がわかる・できる」ことを「相手に教える」ことには難しさを感じます。在学中、小学生向けに化学を教える活動に参加したことがありました。その経験を踏まえながら、相手にわかりやすく伝えるスキルを磨いて、後輩から頼られる存在になっていきたいです。また、一研究者としては実験のスキルを磨きながら、薬事対応などの幅広い知識を身につけていきたいと考えています。

Q10. 工学院大学を卒業してよかったと思うことは?

工学院大学で有機化学を学んでいなければ今の自分はいませんし、人生において最も重要なポイントだったと思います。
また、学部1年次から3年次までは自治会に所属して、学生総会の企画・運営や、学内での献血活動を実施していました。顧問の先生がいない中で、仲間と協力して活動していくことは純粋に楽しく、貴重な経験になりました。
勉強面はもちろんのこと、工学院大学には学生を成長させるさまざまなチャンスが広がっていると思うので、ぜひ積極的に活用してほしいです。

在学時を振り返って……先進工学部  南雲 紳史 教授から一言💡
島さんはヒガンバナ科の植物が作り出す薬理活性物質の化学合成に挑んでいました。複雑な構造を組み立てることはとても難易度の高い課題でしたが、いつも黙々と、そしてにこやかに実験を行っていました。暖かく穏やかな人柄で、良きバランサーとして個性派ぞろいの研究室をまとめてくれました。工学院大学や有機化学との出会いが島さんの人生を豊かなものにしたとうかがい、とてもうれしく感じています。焦らずじっくりと、そしてなにより健康に留意してこれからもご活躍ください。

工学院大学は、135年の歴史の中で10万人以上の卒業生を輩出し、その多くがものづくり分野をはじめ、さまざまな業界で活躍しています。
先輩たちが歩んできた道を、将来を考える上での材料にしてみてくださいね。

次回の卒業生インタビューもお楽しみに!

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