工学的知見を結集させ地球環境の保全に貢献
日立造船株式会社は、ごみ焼却発電施設をはじめとして、地球環境の保全やカーボンニュートラルな社会の実現に貢献する多様な設備開発を展開しています。2020年から研究員として勤務しているのが、工学研究科機械工学専攻を修了した櫻井優矢さん。在学中にリサイクル工学研究室で熱化学的変換技術を研究した成果が、現在の業務にダイレクトに活かされていると話す櫻井さんに、具体的な仕事内容や今後のビジョンなどをお聞きしました。
Q1.日立造船株式会社ではどのようなお仕事をされていますか?
私が勤務する日立造船株式会社は、ごみ焼却発電施設をはじめとする社会インフラ設備の建設・運営を主な事業としています。所属している、知能機械研究センターの機械グループでは、それらの製品に搭載する機械設備の基盤技術の開発や、設置時のシミュレーションのほか、新たな製品の設計支援やAI・IoTを活用した業務管理の省人化ならびに予知保全などを行っています。
ごみ焼却発電施設では、主に家庭から出る一般廃棄物の焼却処理を行いますが、焼却ではエネルギー効率に限界があり、規模によっては効率的に発電できないケースもあります。そこで当社では、環境省委託事業として「次世代型廃棄物処理システム」の開発プロジェクトを進めており、私もプロジェクトメンバーとして参画しています。
学部時代から地球温暖化をはじめとする社会課題に興味があり、科学的なアプローチによって地球環境の保全や持続可能な社会の実現に貢献したいという思いがありました。現在は、まさに学生時代に思い描いていた仕事ができていると感じます。
Q2. 仕事のやりがいや魅力は?
研究開発は、一歩進んでは一歩戻ることの繰り返しで、壁にぶつかれば基礎に立ち返って考え直し、学生時代の教科書や参考書を読み返すこともありますが、そうやって世界中の誰もが通ったことのない道を“冒険”できることにやりがいを感じます。自分の発見が地球や人々の困りごとの解決に貢献できると思うとワクワクします。
Q3.現在の仕事で大変なことはなんですか?
次世代型廃棄物処理システムは、一般廃棄物が対象のため、さまざまな固体有機資源が混在し、反応経路がとても複雑です。予測不能な部分が大きく、すべてを扱いやすい状態にしてエネルギーとして活用することは決して簡単ではありません。新たな開発に挑戦する以上、マニュアルもありませんし、失敗や想定と異なるトラブルが起こることもありますが、失敗やトラブルこそがプロジェクトを前に進める大きなチャンスになると考えて日々取り組んでいます。データや数値が意味するところをじっくりと考えることで、新しい発見が必ずあり、状況を冷静に判断して、次に選択すべきアクションを見極めて一歩ずつ解決していくことを心がけています。
Q4. 現在の仕事で必要と感じているスキルや能力は?
視野を狭めず、自分の軸を持った上で、柔軟に幅広く知識と視野を広げることが大切だと感じます。社会に出れば、周囲の環境や方針が自分の意志にそぐわないことも出てきますが、反発したり拒絶したりするのではなく、目の前にある成長のチャンスに向き合うことが重要だと思います。また、柔軟に他者の声に耳を傾けることで、周囲の知見と自分の知見を融合させることで新たな発見につながり、新たな価値の創出につながると感じます。
Q5. 仕事の中で、大学で学んだことが活かされていると思うことはありますか?
学部時代には、小林潤教授のリサイクル工学研究室で、木質系バイオマスの「熱分解ガス化」という技術を研究しました。木材を水素や一酸化炭素などの気体に変換する研究で、大学院では、気体に加えて液体や固体への変換も含む熱化学的変換技術を研究しました。現在の、次世代型廃棄物処理システムのプロジェクトでは、この研究が直接的に活かされていると感じます。
また、材料力学、流体力学、熱力学、機械力学のいわゆる「四力学」のほか、伝熱工学や燃焼工学など、機械工学科で勉強した内容は、どれも大いに役立っています。さらに、機械設備から得られたデータの解析や、廃棄物処理システムでの反応モデルの解析などでは、大学院時代、平塚将起准教授に教えていただいた分子動力学を用いた計算手法や、プログラミング言語をはじめとしたデータサイエンスのスキルがとても役立っています。
Q6. 櫻井さんの心構えはどのように形成されたのでしょうか?
学問としての発展に加えて、社会実装に貢献しようというスタンスを重視されている小林先生の影響が大きいと思います。「サイエンティストではなくエンジニアであれ」という教えは、今でも胸に刻まれています。
また、在学中に学外の研究機関に勤務されている研究者にお会いする機会があったのですが、その方は日本国内のみならず、世界を見据えたスケール感で研究をされていました。社会に役立つ技術を開発しようとする姿勢に感銘を受けたことが、私が研究職を志す思いを強くしたきっかけにもつながりました。
Q7. 今後の夢や展望を教えてください。
まずは2030年に向けて、現在開発に携わっている製品や技術を世の中に送り出すことです。長期的には、SDGsで掲げられている目標を達成するために、私にできることを考えていきたいです。日立造船では海外案件も多いので、いずれ挑戦できればと考えています。
そのために私は、大学院修了後もリサイクル工学研究室の客員研究員として工学院大学に在籍し続け、2022年10月からは工学院大学の博士後期課程をスタートさせています。これから数年間は仕事と大学での研究を両立させながら、博士号の取得をめざします。
Q8. 後輩たちへアドバイスをお願いします!
ぜひ、海外留学や国際会議での発表などに積極的に挑戦してほしいです。最近は翻訳アプリも精度が上がっていますので、英語が苦手でもなんとかなります。私は修士課程の1年目にスイス、2年目にはアメリカでの国際会議に参加して研究内容を発表しましたが、日本とは異なる文化や空気感に触れるだけでも視野が広がりました。
もちろん、それ以外にも工学院大学には学生のチャレンジができるプログラムが豊富です。成長したいと思えば、教職員が一体となって後押ししてくれますので、安心して、そして勇気をもって自分の道を切り拓いていってほしいと思います。
工学院大学は、135年の歴史の中で10万人以上の卒業生を輩出し、その多くがものづくり分野をはじめ、さまざまな業界で活躍しています。
先輩たちが歩んできた道を、将来を考える上での材料にしてみてくださいね。
次回の卒業生インタビューもお楽しみに!
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