環境設備の研究開発。大学での研究が“未来のキャリア”に直結している
安田さんが大学院で研究したのは次世代空調システム。企業と共同研究して実用化をめざすプロジェクトで、当時、学生として企業と関わった安田さんは、現在スーパーゼネコンの設備部で活躍しています。設備職として工事・設計・管理と多方面に精通したうえで、安田さんが描く将来キャリアは「あの頃」の研究とつながっています。
Q1.現在の職業を選んだ理由は?
大学院進学後は空調システムなどの環境設備分野を研究していましたので、就職活動にあたり当初は設備系の設計事務所とゼネコンの設備職を意識していました。募集時期の関係からゼネコンに絞ることになり、将来的に設備の研究開発に従事する可能性が大きいのはやはりスーパーゼネコンだろうと考えるようになりました。そのなかで説明会に行った会社が大林組でした。就活生向けの現場見学会に参加し、大林組なら空調から電気、水回りまで、大きな建築現場の設備工事全般に携われると実感しました。その後、懇親会に出席し、社員の方々と話をして相性の良さを感じたのが後押しになりました。大学院の研究はもちろん建築学部の学びを活かしながら、自分らしく成長できそうと確信しました。
Q2.入社から現在までどんな仕事を経験してきましたか?
入社後、設備部では新人研修を終えるとジョブローテーションの形で一通りの業務を経験します。私は現場の施工管理をトータルで約5年、東京本社で設計を約1年経験し、この4月から東京本社の設備部で主にデスクワークに従事しています。施工管理は名古屋支店と札幌支店が管轄する現場で働きました。時系列では最初に愛知県の現場を経験し、東京本社での設計を経て次は北海道の現場、そして今に至るという経歴です。
Q3.仕事の中で、学生時代に学んだことが活かされていると思うことはありますか?
施工管理では設備工事の担当でしたが、当然ながら建築とも関わりますので、建築施工でしか使わない専門用語があらかじめ理解できるのが強みでした。そこは建築学部の授業、なかでも「建築施工」の授業が役立っています。大学院の研究が活きていると感じるのは実施設計の設備図作成や完成後の工事品質を評価する業務で、分からない点があると今も教科書を引っ張り出して確認しています。また研究室の同期や後輩が同業他社にいるので、お互いに教えあう機会にも恵まれています。
さらにこれは感覚的なことですが、会社に恩師の野部先生を知っている方が多いので、「野部先生の教え子」という親しみで距離感が縮まりやすい気がします。ちょうど私が入社する少し前に野部先生が大林組の技術研究所と共同研究をしておられたこともあり信頼関係が築かれています。
Q4.大学院に進んで良かったことは何ですか。
私が在籍していた野部研究室の最大の特色は、学外の企業から委託された研究を行うことです。研究室の大学院生はそれぞれ独立した研究プロジェクトに参画し、私は大手ガス会社が開発する省エネシステムを研究していましたが、他の同期もスーパーゼネコンや設計事務所などの大手案件が中心です。当時の最先端の技術を用いて省エネや環境負荷の削減などをどう実現するか、企業側の現実的な視点も反映して研究を進められたのは得がたい経験でした。
また、企業の担当者ともコミュニケーションをとりますので、いわば“疑似社会人”としての振る舞いが鍛えられたことも収穫です。
Q5.現在のお仕事内容を教えてください。
取引先との受注金額を決めるための工事費の算出や見積書の作成を担当しています。その後、契約金額について取引先および協力会社と折衝・契約を行っています。取引先に提出する見積書は、協力会社の見積書を査定したうえで作成するのですが、最近は物価上昇の影響を受けて人件費が高騰するなど、世情の変化が見積項目にもダイレクトに表われるのが興味深いです。建築業界の情勢がひしひしと感じられる仕事です。
Q6.現在のお仕事で大変なことは何ですか。
取引先と協力会社、双方が納得する着地点を見出すことです。お客さまとしては可能な限り支払額を抑えたい、一方の協力会社はできるだけ高く受注したい。あいだに立つ当社としても利益を出すには協力会社への発注額を抑えるのが望ましいのですが、やみくもに値引きを求めるだけでは工事品質も作業員の質も落ちかねません。工事が始まった後の資材手配や人の調整も大変です。私は施工管理と設計の実務経験が役立ち、何とか塩梅のいい金額を弾き出せるようにはなりましたが、課題はそれを納得してもらう交渉力です。野部先生はかねて「ゼネコンの社員には、時には妥協することなく物事を突破する力が大事だ」とおっしゃっています。ジョブローテーションは現在の仕事で一巡しますので、私も再びさまざまな経験を積むことにより、自信を持って相手を説得する力を高めたいと考えています。
Q7.これからどのようなお仕事をしたいですか。
設計はまだ1年ほどしか経験がないので、もう一度配属になって腰を据えて取り組みたいと思っています。一方、現場管理も協力会社の作業員さんへの接し方や意見の通し方、さらに地域によって工法が異なるなど、まだまだ吸収すべきことがたくさんあります。今後は現場での施工管理を再度経験することも視野に入れています。大規模設備工事に携わる者としては、配属先を問わず一級管工事施工管理技士を取得するつもりです。来年には受験したいと勉強を始めています。
また、私は卒業論文で先輩たちが開発・改良しながら受け継いできた計測装置を使い、エアコンの稼働を1年間にわたり計測したり、修士論文では過去の先輩たちの計測データを20件ほど分析し、外気温に対する実際の運転効率を明らかにしたりしました。私の計測データもまた後輩たちが活用してくれるはずですが、こうした研究で得た知見を当社の技術開発でもぜひ活かしていきたいと考えています。
工学院大学は、136年の歴史の中で10万人以上の卒業生を輩出し、その多くがものづくり分野をはじめ、さまざまな業界で活躍しています。
先輩たちが歩んできた道を、将来を考える上での材料にしてみてくださいね。
次回の卒業生インタビューもお楽しみに!