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分野横断で学ぶ建築の魅力!「建築入門」の授業を潜入取材

2011年に日本初の建築学部を開設した工学院大学では、建築学を芸術や社会の視点も踏まえた多彩な学問領域として学ぶことに重点を置き、4年間のカリキュラムを構成しています。特に1年次は、建築設計から環境設備、デザイン、まちづくりまで、幅広いジャンルの基礎となる部分を学び、建築に対する理解を深めていきます。「建築入門」は、1~13回までの授業を4つのアクトに分け、建築のさまざまな分野の実践体験を行う授業。14回目となる最終回に潜入し、約4カ月にわたってどのような授業が展開されてきたのか、その全貌を明かすべく取材を行いました。

建築の基礎を体感で学ぶ「建築入門」

「建築入門」は、建築学部に所属する1年生約300人が履修する授業です。建築に関する様々な分野を横断的に学びつつ、協働体験やディスカッションを通じて“チームで行うものづくりの意義”を体感します。最終回が行われた7月25日、八王子キャンパスの大教室内は夏休みを目前にした学生たちの熱気で、明るい雰囲気が漂っていました。

コーディネーターを務めた遠藤先生

まちづくり学科の遠藤新先生がマイクを握り、講義がスタート。遠藤先生は改めて、授業のねらいを説明します。

【建築入門のねらい】
①建築関連の仕事をする上で欠かせない、チームでのものづくりと協働、
ディスカッションを体験する
②大学での学修方法やレポートの作成方法など、大学生として必要な基礎的素養を身につける
③建築のプロフェッショナルとして社会に出る上で必要な倫理観などを学ぶ

そして、4月から1カ月ごとに展開された4つの「チームアクト」について、各担当教員が振り返りを行いました。

「チームアクト1:生産系」では建物の“作られ方”を理解

建築学科 田村雅紀先生が担当したアクト1では、建築における「生産」、つまり「ものづくり」の側面について理解を深める授業が展開されました。

建築学科 田村雅紀先生

建築生産のプロセスや建物の構造について理解すべく、学生たちは八王子キャンパスでフィールドワークを実施。キャンパス内の建物を見学しながら、壁や天井の構造、使用されている材料などを調査しました。授業を担当した4名の先生方が出題した“謎解き”にも挑戦し、建物に関する理解を深めていきました。

実際に見て触れてフィールドワークを行う学生たち。

田村先生はアクト1のまとめとして、環境問題の古典『沈黙の春』を上梓した生物学者 レイチェル・カーソンの言葉、「知ることは、感じることの半分も重要ではない」を引用。そして、今後の世の中で必要とされるものづくりには科学的な知見が重要だと述べつつ、知識はちっぽけなものであり、実際に見て感じることが大事だと強調しました。最後に「建築は頭で考えすぎないでほしい。リアルな体験をたくさん積んでほしい」と締めくくりました。

「チームアクト2:構造・防災系」 スパゲッティブリッジで体感する構造力学

建築学科 小野里憲一先生が担当したアクト2では、ユニークな「スパゲッティブリッジコンテスト」を開催しました。

建築学科 小野里憲一先生

学生たちは4〜5人のチームに分かれ、指定の条件でスパゲッティの橋を制作しました。

●        使用材料:スパゲッティ300g
●        サイズ:長さ50〜60cm、高さ30cm以下、幅15cm以下
●        接着剤:グルーガンを使用

ブリッジの中央下に吊フックをつけ、荷重をかけていき、耐力性能を競います。優勝したのは、模型の重さが0.106kgと軽量ながら、3kg超のおもりを支えられた44班。小野里先生によると、成功の鍵は力をかけても変形しにくい特徴がある「トラス構造」にあったそうです。二次元で考えたとき、良い構造をしている設計図でも、三次元で組み立ててみるとおもりの重さとそこに発生する「曲がる力」に耐えられなかった作品が多かったとのこと。

制作した模型に少しずつおもりを足していく様子

コンテストを通じて、学生たちは机上の計算だけでなく、実際に材料を使って制作することで、力の伝達や構造の安定性について実践的に学ぶことができました。

建築DXの最前線を探った「チームアクト3:計画・DX系」

まちづくり学科 村上正浩先生が担当したアクト3では、学生たちが40チームに分かれ、建築における世の中のDX事例について広く調査しました。

まちづくり学科 村上正浩先生

日建設計の吉田哲氏による特別講義では、建築現場でのデジタル技術の活用について、BIMを使った遠隔での協働設計などの実例を学びました。学生たちは学んだことを活かし、デジタル技術を建築・まちづくりにどう活用するかを提案。八王子キャンパスの食堂で混雑緩和のために赤外線センサーを使う案など、実践的なアイデアが多数生まれました。最後に、村上先生は「デジタル技術は重要。しかし、実際に物を見たり触ったりすることも忘れずに」と伝えています。建築のスケール感や材質感は、デジタル空間だけでは十分に理解できないため、リアルな体験と組み合わせることの重要性を強調しました。

サーモグラフィーカメラで環境を可視化。「チームアクト4:環境・設備系」

まちづくり学科 中島裕輔先生が担当したアクト4では、53チームに分かれた学生たちが、サーモグラフィーカメラを使った環境クイズを考案。普段目に見えない温度分布を観察しました。

まちづくり学科 中島裕輔先生

「目玉焼きは黄身のほうが白身よりも温度が高い」といった意外性のあるクイズや、らせん階段に人が何人いるかを当てる、サーモグラフィーカメラならではのクイズが登場しました。

物体の表面温度を非接触で測定し、色分けして可視化できるサーモグラフィーカメラ

クイズを通じて、学生たちは日常生活の中にある環境や熱に関する現象について、科学的な視点から考察する機会を得ることができました。中島先生は「機器を使って環境を理解するだけでなく、実際に触ったり体感したりすることも大切。五感を駆使して環境を感じとってほしい」と話し、振り返りを終えました。

建築入門のその先へ

最後に先生方から、これから建築を学ぶ学生たちへメッセージが語られました。

僕らの時代は自由に使える時間を使って、「建物見に行こう!」といろんなところに足を運んだ。自転車で北海道建築旅行にも行きましたね。大学時代は「様々な建物を見学する絶好の機会」。とにかく、いろんな土地を訪れて、建築に触れることがとても大切です。それを、皆さんにもぜひ続けてほしいと思います。 田村先生

前期の設計や演習を担当している中で思うのは、座学で得た知識を実験や設計に活かしてほしいということです。「これ、授業で習ったよね?」と伝えると、「ここに使えるんですね!」ってピンとくる人がいたりします。ぜひ、色々なことを関連づけて考えてみてほしいです。 小野里先生

デジタルの話をしましたが、やはり実際にものを見たり触れたりして、材料や材質、スケール感を実感することが非常に大切だと思っています。リアルな体験とデジタルの仮想空間をうまく組み合わせ、相互補完しながら進めていくことが必要です。 村上先生

実際に建築を見に行くと、見た目が格好良くても「この空間、涼しくないな」とか「まぶしすぎて長く居られないな」とか、快適度に着目することができます。写真だけを撮っても建築を知ることにはなりません。実際に足を運んで「人にとって快適な空間であるか」を確認してほしいです。また、建築の学問は分野ごとに分かれていますが、縦割りで考えすぎずに、他の分野の知識を活かすことを常に意識してみてください。 中島先生

建築を見に行く際は、まず町中華と和菓子屋さんを探すのが鉄板です。町中華に入ると、その土地の人が何を食べているのかがわかりますし、表通りからの場所や料理の味でその町の雰囲気が掴めるんです。和菓子屋さんがある地域は、日本の伝統を大切にしてきた町なんだなと思います。建築を学ぶときには、建物や町を見るさまざまな視点があることを、いろんな授業の中で先生方がこっそり教えてくれますよ。 遠藤先生

工学院大学 建築学部の授業では、理論と実践を組み合わせた多角的な学びが展開されていました。今回取材した「建築入門」では、チームで協働し、話し合うモノづくりの大切さを実感した学生たち。同じチームに所属していたメンバーと仲が深まったという学生も多かったようです。1年生はより深い専門性を身につけるべく、後期も様々な授業を履修していきます。

工学院大学noteでは、さまざまな授業の様子をレポートしています!ぜひご覧ください。