作って、揺らして、壊して、建物の構造を学ぶ
工学院大学では、実験・実習やPBL(問題解決型学習)科目を各学科で実施しており、講義で学んだ知識を実感し、実践力を身に付けることをめざしています。
この企画では、工学院大学ならではの授業に潜入し、その様子をご紹介します。
「建物が壊れるとはどういうことか」を知る
建築学部2年生の授業「構造基礎実験」では、座学で学んだ構造力学、各種構造(RC構造・鋼構造・木質構造)、耐震などの減災・防災について、実習を通して学びを深めます。実社会で見ることが難しい建物が壊れる様を観察することで、材料の特性と構造に関する知識の必要性を学び、体験的に理解・習得します。
15回の授業はオムニバス形式。各分野のスペシャリストの教授陣が交代で受け持ち、実験・実習を行います。今回のnoteでは、この授業で扱うテーマをピックアップしてご紹介します。
揺れに一番強い模型はどれ!?振動台コンテスト
担当:山下 哲郎 教授
3週間かけて、全16チームが模型の耐震性を競う「振動台コンテスト」を実施します。各チームは予算3000円以内で高さ1m、5階建ての耐震構造の模型を制作します。
1週目で設計、2週目で模型の制作を進めます。限られた時間と予算の中で、学生たちは座学で学んだ知識と構造パターンを駆使して、模型を完成させていきます。
最終回ではコンテストを開催。振動台の上に各チームの模型を載せて、倒壊実験を行います。優勝チームには、レポート評価が10点分加点!模型の強さはもちろん、デザインも大切な評価ポイントです。
振動台には1995年の兵庫県南部地震(最大震度7)と2003年の十勝沖地震(最大震度6弱)の地動が入力されます。前者ではキラーパルスと呼ばれる衝撃的な揺れが入力され、校舎では短周期の激しい揺れが長く続きます。強い揺れに耐え抜き、最後まで無損傷で残った模型もありました!
コンテストを通して、学生たちは楽しみながら耐震構造の基本形式を学び、その揺れ方や壊れ方を実感します。材料・制作期間が限られた挑戦で、倒壊してしまうチームもありましたが、結果からバランスの良い建物が強いこと、特に接合部の施工が大切であることを肌で感じ、次の学びへと活かします。制作までの過程は、チームで設計施工をまとめる訓練でもあります。
このコンテストは2009年から毎年続けられており、東日本大震災が発生する以前から、工学院大学では防災・耐震に関する教育を推進してきました。
橋の崩落実験
担当:小野里 憲一 教授
この回では、学生達が事前に制作した橋の模型に、実際に荷重を加えていくことで、破壊時の加重や損傷状況を観察します。強いものは10kgの重さを支えることができます。
時間をかけて制作した橋が崩落する瞬間、学生たちからはつい落胆の声が……。体験を通して、橋の構造や耐力性能への理解を深めます。
大規模設備で損傷実験
木造耐力壁の破壊実験
担当:河合 直人 教授
八王子キャンパス 都市防災研究センターの大規模実験設備で、頑強な建物を支える部材の損傷実験を行います。
木造建築では、柱とともに木造の耐力壁が建物を支えています。大型実験装置で水平加力試験を行い、損傷の様子を観察します。
鋼梁の曲げ実験
担当:松田 頼征 助教
柱が垂直方向に建物を支えるのに対し、梁は水平方向に支える役割を担っています。広く用いられるH型鋼は、鉄骨造の建物を支える頑強な部材です。都市防災研究センターでの実験では非常に強い力でこの部材を変形させ、その性能を把握します。
不思議な構造を模型制作で学ぶ
担当:小野里 憲一 教授
テンセグリティ構造とは、圧縮材と張力材のバランスによって成立する構造システムのこと。説明を聞くと難しいですが、学生達は理論を学ぶのはもちろん、実際に模型を作ることで学びを深めます。
使用する材料は割りばしと輪ゴムと画鋲。割りばしが圧縮力を輪ゴムが引っ張り力を担い、画鋲が接合部の役割をします。出来上がった模型をよく見ると、輪ゴム同士はつながっていますが、割りばし同士は接触していません。つまり、輪ゴムの引張力のみで全体をつなげています。そのため、出来上がった模型は輪ゴムのように柔軟です。
「構造基礎実験」では今回ご紹介した授業内容の他にも、防災演習や模型の制作、さまざまな部材の損傷実験などを通して、建物の構造を理解することの重要性を実感します。学生達は楽しみながら、理論を自分の体験へと落とし込み、実践力を身に付けていきます。
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