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モノづくりの根底には理念が必要。大切な視点を学生時代に吸収 #卒業生インタビュー

工学院大学では学生たちが理工学に関する創造活動を行う「学生プロジェクト」の活動が活発です。そのなかで「ロボットプロジェクト」「ソーラーチーム」プロジェクトに参加・活躍した齊藤翔さんは、現在、自動車メーカーの生産工程でチームマネジメントに従事。仕事の向き合い方や人のまとめ方、さらにはモノづくりに対する確固たる信念は、学生時代から芽吹きました。

株式会社SUBARU
モノづくり本部 電動車両生産技術部 第2トリム技術課
齊藤 翔さん

入社9年目/生産技術・開発・整備/工学部機械システム工学科→大学院工学研究科機械工学専攻 修士課程修了/自動制御研究室(指導教員:機械システム工学科 濱根 洋人教授/趣味:整理整頓、掃除
                  ※掲載内容は取材当時のものです。


Q1.就職先の志望理由を教えてください。


 高校まで野球に熱中する一方、プラモデルなどモノをつくるのが好きだったことから、大学はモノづくりを学べる工学院大学を選びました。期待通り、学部生の頃にはロボットプロジェクトのメンバーとしてNHK学生ロボコン大会に出場。その関連でソーラーカープロジェクトにも参加し、修士1年の時には学生ソーラーカーレースの世界大会(※)にも出場するなど、思う存分モノづくりを満喫しました。就職でもやはりモノをつくる会社に行きたいと考え、日本なら基幹産業の自動車業界だなと。そのうえで重視したのは、直にモノをつくる現場に近い仕事です。いろいろと調べて「生産技術」というキーワードに出会った後は、生産技術職に絞って就職活動を行いました。完成車メーカーで志望したのはSUBARUだけですが、縁をいただいて現在に至ります。

※「工学院大学ソーラーカープロジェクト」として2013年にオーストラリアで開催された「Bridgestone World Solar Challenge 2013(WSC2013)」に初出場し完走。齊藤さんは学生リーダーを務めた。

Q2.他にはどんな会社を受けたのですか。


 エントリーしたのは7社ほどで、スプリングや電装品などの自動車部品メーカーが中心です。変わったところでは、お札をつくる印刷機械メーカーも志望しました。偽造防止のためのホログラムを加工する機械の開発です。異業種ですが「面白いモノづくり」という点に興味をそそられました。先に述べたように職種を「メーカーの生産技術」に決めていたため就活自体に迷いはなかったのですが、大学の就職支援ではエントリーシートを添削してもらったことが助かりました。第三者の目でチェックすると、自分では気付かない見落としを指摘していただけます。

Q3.現在の仕事内容を教えてください。


 入社からずっと新車開発に携わっています。車種でいうとレガシィやインプレッサ、フォレスターといった系列のフルモデルチェンジで、私は群馬の拠点を担当しています。生産技術とは、簡単にいうと自動車生産に関わる多くの部署と関わりながら生産性の向上に取り組む仕事です。したがって生産技術部門の中でも、車内に組み付ける内装部品、バンパーやワイパーといった外装部品、タイヤやエンジンなどの足回り部品を専門とする3つのチームがあります。さらに生産ラインからも技術応援という形で何名か来ていただき、合わせて10数人が実働しています。私も各チームで経験を積ませていただき、現在はプロジェクトを進めるにあたり、上司と私の2人で全体のチームマネジメントを行っています。各チームの意見を取りまとめて検討したり他部署に交渉したりするほか、若手メンバーの指導・育成も任されています。

Q4.お仕事のやりがいは何ですか。


 設計やデザイン部門など、開発の上流工程の方々に、私たちの改善提案が受け入れられることです。設計やデザインが重視するのは、燃費などの性能をいかに良くするか、車の形をどうするか、といった点が中心で、どうしても「量産」の視点は置き去りにされがちです。そこで私たちが量産に関わる提案を行って反映された結果、完成した車が順調に生産されて市場のお客様のもとに届く――。そんなプロセスに結び付く瞬間が、一番嬉しいですね。

Q5.改善提案は常にスムーズに受け入れられるものですか。


 正直、一筋縄では行きません。やはり設計もデザインもそれぞれの部門に達成目標がありますので、その路線を変えるような提案は、内心、望ましくないはずです。しかしそこは職業人同士なので、お互いに建設的な意見交換を図っています。とりわけSUBARUはお客様を第一にという方針のもと、絶対の品質でお届けする「一品一様」の車を生産していますので、不具合およびリコールを出さない視点からの提案であることを論理立てて説明すると、きちんと納得していただけます。他部門への働きかけに限らず、チーム内においても「物事をしっかり伝える技術」が重要だと感じています。

Q6.学生時代の経験が役立っていることは何ですか。


 たくさんありますが、一番はモノをつくる時には、根底にフィロソフィー(理念・哲学)がなければならない、ということです。これは私の恩師の濱根先生が、特にソーラーカープロジェクトを進めるにあたり、常に言い続けていた言葉です。プロジェクトの目的はレースの出場ですが、先生はその先の実用性、ソーラーカーが人々の生活の足として使われる未来を見据えていました。ですから当時、私たちが開発した1号機・2号機は、居住性を重視した普通車の車体に近いもので、当時から主流だった流線型のレースマシンとは一線を画していました。初めて世界大会に出場した時は2号機で臨み、「斬新な車が出てきた!」と大いに注目されたものです。今は割とレースに特化した車体になりつつありますが、「誰もがソーラーカーに乗れるために」という理念は変わりません。

オーストラリアを走るソーラーカー2号機 Practice

 翻って、SUBARUは「“お客様第一”を基軸に『存在感と魅力ある企業』を目指す」という経営理念を掲げています。いま自動車業界は自動化や電子化の推進など100年に一度といわれる大変革期を迎えています。そのなかにあってSUBARUが存在感と魅力を発揮し続けるには、新車開発のプロジェクトをはじめ、すべての施策が会社の理念とトップの方針に紐付いているという理解と共有が不可欠です。先ほど申し上げた「伝える力」にしても、根底にこの理念がなければ本当には伝わらないし協働してもらえません。伝える〈技術〉そのものは、入社後に格段に向上しましたが、学生時代から理念の大切さを意識できたことが私の強みになっていると感じています。

Q7.プロジェクトを通して成長されたのですね。


 特にソーラーカーの世界大会で学生リーダーを務めた経験は、「仕事に活きている」という次元を超えて、そのまま受け継がれていると感じています。物事を動かす立場として一人よがりではなく、常にメンバーのことを考えるとともに、何を目指して行うのか意識するようになりました。また、工学院大学の学生プロジェクトは、サークルの枠を超えた活動にも及ぶのが特色です。初めて世界大会に出場するにあたり大学からも支援をいただきましたが、いろんな通信機も必要だったため、私たちもスポンサーの獲得に努めました。広報から営業まで適材適所のメンバーを配置し、濱根先生のアドバイスのもと、企業を訪問してプレゼン活動を行いました。もちろん断られることもありましたが、経験を重ねるうち段々プレゼンのコツが分かるようになり、レースに出場する時にはユニフォームの背面にびっしりと企業のロゴマークを付けていただきました。学生の身ながら企業のトップや部門長といった方々にお会いしてプレゼンを行う経験は、計りしれないほどの糧になったと思います。

また、ソーラーカーの世界大会では海外の学生たちとの交流も得がたい経験になりました。SUBARUは海外にも生産拠点があり、私もアメリカの生産技術のスタッフと一緒に開発に携わった経験があります。言葉の違いだけでなく、生産性向上の視点や仕事の進め方など、ビジネスにおける文化の差に苦労したものですが、世界大会でも同じようなことを感じたことから、決して超えがたい壁ではなかったですね。海外チームの開発の発想に、「自分たちには思いもつかないな」と感嘆したり、レースの検証をめぐって拙い英語で意見を交わしたりと、大きくいえば異文化コミュニケーションを肌感覚で学んだ記憶が役立っています。

Q8.ほかに学生生活で印象に残っていることはなんですか。


 大学院では濱根先生の自動制御研究室で研究に没頭するとともに、同じ熱量でソーラーカープロジェクトに取り組みました。それ以外は学部生の授業サポートをするくらいで、基本的に私の学生生活は、学校にいるかアパートにいるかの二択でしたね。研究テーマはフラクショナル微分という、整数より細かい計算式を用いた制御技術の研究です。
また授業では、学部1年生の時に受けた、溶接や切削の機械を使う実習が印象に残っています。初めて自分で鉄を削ったり溶接したりといった作業を体感して、「今は機械の自動化が進んでいるけど、原点は人の手だな」と実感したからです。私はSUBARUに入社するまで、今の生産現場は、ロボットがガンガン動いていると想像していました。しかし配属された艤装(ぎそう)工程は、細かい作業の大半を人の手で行う、人力(じんりき)が中心の生産ラインです。「人」に着目して業務の改善を行うという点では、この授業の記憶が原風景にあるような気がします。

2013年 オーストラリア世界大会ゴールの様子

Q9.学生の皆さんにメッセージをお願いします。


 私自身の経験を踏まえると、やはりなにか一つ、学生時代に熱中するものを見つけてほしいと思います。そこで成功体験が得られるのが一番いいかもしれませんが、私も、ロボコンでもソーラーカープロジェクトでもたくさん失敗しました。ビジネスとは異なり、失敗しても致命的な損失にはならない、失敗が許されるというのが学生の特権です。社会に出た時、同じ失敗を繰り返さないようにさらなるレベルアップを図れるという意味では、むしろ今のうちにどんどん失敗して経験値を高めてほしいと思います。私も、まだまだ発展途上にあると思っていて、今後はプロジェクトの進行にしろ、プライベートで家庭を築くにしろ、理念や信念を大事にして物事をしっかりと進められる、一本筋の通った人間になることが目標です。工学院大学でのあらゆる経験を土壌にして、さらなる実りに結びつけたいですね。

2022年度入学式では卒業生代表として新入生へエールを送りました

在学時を振り返って……工学部 濱根 洋人教授から一言💡
齊藤さんは、独創的な車両の設計・製造だけではなく、チームマネジメントをしてソーラーチームの基盤をつくりました。
とくに、工具を取りに行くような些細なことでも自らが汗をかきながら走り、リーダーとしての背中を常にメンバーに見せたひたむきな姿を思い出します。ソーラーカー開発について学会の招待講演、ソーラーカー以外の研究にも取り組み学会発表をしました。私は齊藤さんとの楽しい充実した思い出を大切にしています。齊藤さんの姿勢は後輩に継承されています。齊藤さんの今後のさらなる活躍に期待します。

工学院大学は、136年の歴史の中で10万人以上の卒業生を輩出し、その多くがものづくり分野をはじめ、さまざまな業界で活躍しています。
先輩たちが歩んできた道を、将来を考える上での材料にしてみてくださいね。

次回の卒業生インタビューもお楽しみに!


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