首都直下地震の新たな被害想定 おさえておきたい3つのポイントを解説
今年、東京都の首都直下地震等による被害想定 が10年ぶりに更新されました。私たちはこの発表をどのように捉え、何をすべきなのでしょうか。
9月は防災月間ですので、防災・減災の研究が専門の久田嘉章教授にお話を伺いました。久田教授は、今回の被害想定を策定するにあたって東京都防災会議地震部会の専門委員を務めました。
新しい被害想定の概要
都心南部直下地震(M7.3)が発生した場合、都内の被害は、死者6,148人、負傷者は9万3,435人、揺れや火災による建物被害は19万4,431棟、帰宅困難者は453万人と想定されます。10年前に出された想定と比べると、都心部では建物の耐震化や不燃化が進み、死者数、負傷者、建物の被害はおよそ6割に減りました。
この他にも以下の4つの地震について、被害想定が発表されました。
・多摩東部直下地震(M7.3)
・大正関東地震(M8クラス)
・立川断層帯地震(M7.4)
・南海トラフ巨大地震(M9クラス)
また、被害想定とともに「身の回りで起こりえる災害シナリオと被害の様相」が発表され、最悪の状況を想定して日頃からの備えを行うことが呼びかけられています。
この10年間で起こった変化
近年は、住宅の耐震化・不燃化が進み、都心部では建物の高層化が加速しています。また、少子高齢化など人口構成も変化し続けています。2011年の東日本大震災以降、2016年熊本地震、2018年の大阪府北部地震や北海道胆振東部地震など、全国で大規模な地震が頻発するとともに、科学的知見が蓄積されてきました。都心の環境が変化する中で、最新のデータに基づいた新たな被害想定が発表されました。
新しい被害想定 おさえておきたい3つのポイント
1. 住まいや勤務場所の被害想定
今回の被害想定では、発生する地震のタイプごとに、被害が生じる場所と様相が提示されました。自分が住んでいる、働いている、学んでいる地域で、どのような被害が想定されているかを改めて確認してください。
例えば30年で70%の確率で起きるとされる首都直下地震は、首都圏のどこにでも起こる可能性があり、都心直下だけでなく、今回は多摩東部直下など東京都の西側を震源地とする想定も公表されました。また南海トラフや相模トラフ沿いの巨大地震では、高層建築を大きく揺らす長周期地震動や、島しょ部や東京湾・河川の遡上する津波も想定する必要があります。
2. 災害シナリオで、もしもの時に備える
同時に公表された災害シナリオは、過去の震災で前例がなく、定量化できない都市型災害や複合災害などのシナリオを時系列で示しています。火事、土砂災害、津波、家屋倒壊、停電、渋滞、通信網の障害など、様々な状況を想定しておく必要があります。
この災害シナリオでは、電力・水道などのライフラインや鉄道などのインフラ設備にどんな影響があるか、地震直後から1ヵ月後まで時系列で具体的に示しています。さらに避難所や住み慣れた自宅での生活の中で、身近で起こりうる被害状況が想定されています。
この状況下に置かれた場合に自分はどうするか、安全な避難生活を送るために何を備えておくべきか、自分事として捉えて災害シナリオを確認しておきましょう。東京消防庁が「地震に対する10の備え」を公開していますので、参考にしてください。
防災訓練は火災発生を前提に、建物から避難する場合が多いです。実際には火災は発生せずに負傷者や閉じ込めへの対応、都心部での大群衆による混乱、津波、水害、新型コロナ感染症など複合災害を考えると、避難よりも建物の中に留まったほうがよい場合があり、様々な状況が考えられます。また、奥多摩などの山間地では住民の少子高齢化や建物の耐震化はあまり進まず、さらに土砂災害により主要道路や橋梁の被害で村落が孤立する懸念もあります。
自分の住んでいる場所や勤務している建物の場合はどうか、市区町村が発信している防災情報を確認してください。
3. 建物の耐震化・不燃化で被災リスクを低減
都心部は建物の耐震化や不燃化が進みつつあり、対策を進めれば確実に被害は大きく低減できます。最も耐震性が低いとされた木造建築も2000年に基準法が改正され、今回の想定でも全壊建物や死者数は1/10程度まで減らせることを示しています。建物を丈夫にして、室内の安全対策も進めれば建物内は安全ですし、仮に出火しても自分たちで消すことができます。さらに十分な備蓄も行えば在宅・在勤避難が可能になり、逃げる必要のない建物や、速やかに復旧可能なまちが実現できます。
建物の耐震化・不燃化が進む中で、昼間人口が非常に多い新宿区は、地震が発生したときになるべくその場に留まるように呼びかけています。そのためには、建物の耐震対策に加えて、安全な室内対策、および、住宅では1週間程度、会社や学校など3日程度の水と食糧、トイレ対策などの備えが重要です。
日ごろの備えで「逃げる必要のない建物とまち」を実現
久田教授は、都心部では「逃げる必要のない建物とまち」を実現することが必要と語ります。建物の耐震化に加えて、組織や一人ひとりが建物の耐震対策に加えて、安全な室内対策と十分な備蓄を行うことで、多くの人が震災直後もその場に安全に留まることができます。
その一方で、どんなに十分な対策を行なったとしても想定外の被害が起きる可能性があるので、「絶対に逃げない」という選択肢はあり得ません。もし避難する場合、改めて地域のハザードマップで地震火災や水害時にどこに・どうやって避難すべきか確認しておきましょう。
都民一人ひとりが防災を心がけることで、被害を最小限に抑えることが期待されています。