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世界一静かなドローンをつくる #Action

空撮や測量から物流や警備まで、さまざまな場面で存在感を増すドローン。機械理工学科 航空熱流体工学研究室では、革新的な機構を有するドローンの研究を宇宙航空研究開発機構(JAXA)や他大学と共同で行っています。

人口密集地でも騒音なく飛べるドローンをつくるには? これまでよりも長距離を飛ぶためには? ドローンの実用化に向けた研究を紹介します。

Cast. 先進工学部機械理工学科 航空熱流体工学研究室(佐藤允准教授)

新たな空力技術でドローンの課題を解決

―ドローンは、航空熱流体工学研究室の研究テーマのひとつ。まずは、これからのドローンに期待される社会的な役割について教えてください。

左から本多 秀輔さん、中新井田 馨希さん、西田 涼馬さん

航空熱流体工学研究室 卒業生 西田 涼馬さん:
物流の手段として、非常に注目が集まっていると思います。今、日本国内では9割以上の物流量をトラックが担っていますが、トラック運転手などの人で不足が社会問題にもなっています。一方で、物流量はどんどん増加しています。ドローンは、それらの問題を解決する新たな物流の手段になり得ると考えています。

―ドローンが新たな物流手段となるためには、どのような課題があるのでしょうか?

西田さん:
ドローンのプロペラから発生する騒音や、バッテリー駆動による飛行距離の短さなどが課題に挙げられています。航空熱流体工学研究室は、主に空力を扱う研究室なので、これらの課題を空力的な観点から解決することを目指しています。過去になかったような空力的な技術を創出し、新たなデザインを用いた “革新的ドローン”の開発に貢献したいと考えています。

8の字状のプロペラを持つ“革新的ドローン”

―今までになかった“革新的ドローン”とは、どのようなものなのでしょうか。

西田さん:
たとえばプロペラ自体が8の字を描くLooprop(※JAXAの特許技術)も、革新的ドローンに採用される技術のひとつです。こちらはもともと潜水艦などに用いられるスキュードプロペラをモチーフにしています。スキュードプロペラの特徴のひとつが、音を小さく抑える機構です。ただ、ドローンのプロペラは潜水艦よりも回転速度が高いため、剛性を持たせるために前後の翼をつないだ8の字状のプロペラ形状になっています。

8の字状のプロペラ「Looprop」がそうちゃくされたドローン

4年 中新井田 馨希さん:
私は、工学院大学が所有するワークステーションを使用して、一般的なプロペラとLoopropの流れ場(空気の流れ)などをシミュレーションし、その結果を比較しながらLoopropの空力特性を解析しています。いずれのプロペラも翼端から翼端渦が発生するのですが、これが騒音レベルや空力性能にどう影響しているか、シミュレーションを重ね解析しています。大学卒業後も院に進学してこの研究を続けていく予定なので、Looprop の空力特性を明らかにして“革新的ドローン”の実用化に貢献できればと考えています。

プロペラを箱で囲む!?ボックス翼の研究

―航空熱流体工学研究室が研究するもうひとつの技術が、Box翼と呼ばれるものですね。

西田さん:
はい。プロペラ自体を箱のように外から覆うBox翼を使用することで、プロペラからの音を遮音することでできます。また、上と下の翼が航空機などに用いられる主翼の効果を果たすので、従来のドローンと比較しても長距離飛行が可能なデザインになっています。
もともとBox翼はJAXAの方が考案したもので、社会的にも使われている例が少なく、知見もまだ多くありません。そこで、私たちの研究室ではJAXAや他大学と共同でBox翼の基本的な特性を見るための風洞試験を始めました。高いレベルで研究することができたのは、個人的にも非常に大きな経験。さまざまな大学の方やJAXAの方から自分の知らなかった分野や研究の話を多く聞けたことは、自身の成長につながる経験になりました。

JAXAでの風洞実験のようす

―西田さんの研究は、修士課程1年の本多秀輔さんに引き継がれています。

修士課程1年 本多 秀輔さん:
私は東京大学が所有するスーパーコンピュータを用いて、Box翼の空力特性に関する数値シミュレーションを主に行っています。実験だけでは解明できない流れ場や圧力の分布を確認し、Box翼の基本的な空力特性などを明らかにする研究です。この研究結果がさまざまな機関で活用され、最終的にはBox翼を用いた“革新的ドローン”に到達できたらいいな、と考えています。

“革新的ドローン”が切り拓く未来とは

―“革新的ドローン”の研究が進むと、社会はどのように変化していくでしょうか。

西田さん:
まずは物流の新たな担い手になることを期待したいです。現在、高度150m以上の空域は、ほとんど使われていません。そこにドローンが組み込まれていくことは、非常に夢があると私自身は考えています。
空飛ぶクルマも、ドローンの研究が進んだ先に開発されるものかもしれませんし、人が入れない環境や惑星探査などにドローンが使用されるとも思います。本当に多岐にわたって活躍する可能性が、ドローンにはあるとのだと思います。

ドローンが荷物を運ぶ日常が、身近なものになる日もそう遠くはないかもしれません。工学院大学のYouTubeチャンネルでは、Action!をキーワードに、研究活動や課外活動の様子を発信しています。

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