24年間の成果と挑戦の軌跡「環境建築・実験建築 2001-2024」
建築デザイン学科 藤木研究室では、自然や環境をキーワードにした親自然的な建築や、自然の仕組みを応用して新しい建築を創り出す研究を行っています。
今年度は、藤木隆明先生の提案により、初めての展示会「環境建築・実験建築 2001-2024」を開催。歴代の学生たちの数多くの成果を一堂に集め、24年間の研究成果と挑戦の軌跡を展示しました。
今回のnote企画では、藤木先生と研究室の学生4名に企画の趣旨や作品の見どころを伺いました。
「環境建築・実験建築 2001-2024」とは?
-「環境建築・実験建築 2001-2024」はどんな企画ですか?
藤木先生:
藤木研究室の2001から2024年までの取組みを総覧する展覧会です。これまで、藤木研究室は「環境」、「自然」、「実験」をキーワードに、数多くの成果をあげてきました。今回、これらの成果を一堂に集めて24年間の軌跡を辿る展覧会を企画しました。
また、大地の芸術祭や神戸ビエンナーレなど学外においても様々な作品を発表しており、多くの賞を受賞してきました。環境建築や実験建築などの先進的な取組みをご覧いただきたいと思います。
-今回の展示を企画した意図について教えてください。
藤木先生:
2025年度に定年退職を迎えるため、1年前となる今年、着任してから今日まで学生とともに継続してきた研究室の取り組みを紹介したいと考えました。
-今回の展示が完成するまでの期間、どんな活動を行ってきましたか?
藤木先生:
昨年の秋ごろから展示の準備をスタートしました。展示パネルとパンフレットの製作は私が担当し、展示する模型の手直しは学生が担当しました。約20年ぶりに模型を箱から取り出したところ、樹木がすべて赤く変色してしまっていたため、樹木はすべて新たに作り直しました。この作業は修士2年の山村しほりさんと修士1年の学生たちが担当してくれました。
また、近くに人が接近すると感知して開閉する、呼吸するモックアップ(実物の一部)については、修士2年の平野佳奈さんが、センサー、モーター、配線、プログラムを一新してくれました。さらに、模型を効果的にライトアップする照明計画も行いました。
展覧会では、歴代の学生たちが提案・受賞した作品の数々が展示されました。ここからは、研究室で取り組んだ3作品を紹介します。
題:「人工的感情都市」
制作:平野 佳奈
-作品について教えてください。
平野さん:
人工的感情都市は、都市に音で感情を設計したものです。現代では、均質でピカピカな都市空間が冷たく広がり、固く無表情で私たちを見つめています。 「あの建物が笑っている。」もしこんな未来が来たらどうでしょう。心を持ったような建築が現れたら。人の表情が移り変わるように建築の空間が変化する。未来の都市はきっと人間らしい感情豊かな建築で溢れるでしょう。そして、人々は建築に対してほっとした愛情のようなものを感じるかもしれません。
-この作品を作ろうと思ったのはなぜですか?
平野さん:
建築の空間が持つ力を信じたかったからです。学部時代は言葉で空間を設計していましたが、その空間を使う人が言葉のように感じるかは誰にもわかりません。もっと言葉にできないものに向き合いたかったのです。
-藤木先生のコメント
藤木先生:
街の音に反応して建築自体の形が変化するようにしようと決め、様々な方法で検討段階から試行錯誤して完成させた作品です。赤レンガ卒業設計展で優秀賞(全国2位)を受賞し、とても嬉しく思います。
題:「一本のリボンでつくり出すフェニックス」
制作:片岡 元春、石田 明音、伊藤 太一、上武 蓮、片野 萌子、川田 花月、 東山 和佳奈
-作品について教えてください。
石田さん:
福井市問屋町のランドマークコンペに応募した作品です。対象敷地である福井市問屋町は、福井を代表する産業の卸問屋が集積した場所であり、福井の代表的な産業が他の場所へと渡っていく、飛び立っていく場所であると言い換えることができます。これらの“渡る”や“飛ぶ”といったワードから着想を得て、福井市のシンボルである不死鳥の羽を考えました。福井の産業や人々の思いが町の外へ、また未来へと繋がっていくようにと願いを込めて、アルミの帯からなるひと繋がりのリボンを用いて、蜃気楼のような不死鳥の羽を表現しました。
-この作品を作ろうと思ったのはなぜですか?
伊藤さん:
学部3年次に研究室のメンバーでコンペに取り組むことになり、藤木先生が福井市問屋町のコンペを紹介してくださったのがきっかけです。福井県は藤木先生の出身地でもあり、ご縁を感じたため参加することになりました。
-藤木先生のコメント
藤木先生:
この作品は、私と当時の3年生が一緒に取り組んだものです。作成中は少しずつみんなで案を出し合い、最終的には福井市のランドマークであるフェニックスをモチーフにした石田さんの案を採用しました。形を作るプロセスを進める中で、アルミの帯を使用して形を作ることに決定しました。私が1本のリボンで作ることを提案した際、学生たちは驚いていました。1つの課題が解決したら、また新たな課題に挑戦することで、今回のような素晴らしい作品が完成しました。
題:「浮遊都市 ー自然との共生を目指した新しい都市・建築の提案ー」
制作:川田 花月
-作品について教えてください。
川田さん:
都市化の限界を超えた地球に、持続可能な社会を築くための未来の建築を提案しました。新しい建築的アプローチで現代の環境問題に挑み、人・生物・自然の共生を実現する未来の都市と居住空間を再構築すると共に、地球の生態系の再生を目指した計画です。
-この作品を作ろうと思ったのはなぜですか?
川田さん:
田舎から都会の大学に通う中で、都会には自然があまりにも少ないと感じたことがきっかけです。自然や環境について考える藤木研究室に所属していることもあり、都市の自然減少や環境問題について考える機会が多々ありました。そのため、卒業制作を通じて、人と生態系が共生し、現代の環境問題を解決できる新しい建築を創りたいと思いました。
-藤木先生のコメント
藤木先生:
日本の建築学生の間では、現実的で完成度の高い設計が良いとされる傾向があります。しかし、世界を救うには大胆な発想も必要です。川田さんの作品は、まさにそのような大胆な発想で作られています。彼女の作品はグッドデザイン・ニューホープ賞に応募を予定しているため、ぜひ入賞を目指してほしいと期待しています。
多様な個性が集う藤木研究室
-今回の展示企画を通して、どんなことが印象的でしたか?
石田さん:
樹木の色の検討を繰り返すなど、模型の修復に時間がかかってしまったことが大変でした。しかし、企画を通して藤木研究室の作品を詳しく知ることができ、多くの人と関わることができたことが印象に残っています。
また、藤木研究室でこれまで研究してきたことも改めて学ぶことができました。いわゆる“普段見ている建築”とは異なりますが、それらに挑戦することの大切さとその価値を再認識しました。
平野さん:
展示期間中、藤木先生が歴代の各プロジェクトを説明してくださったので、私が知らない初期のプロジェクトまで詳しく知ることができました。先生がどのような考えで建築に向き合っているかを知る良い機会でした。
川田さん:
藤木先生が展覧会を開いてくださったおかげで、多くのOB・OGの方々とお話しする機会を得ました。先輩方の学生時代の話を聞いたり、進路相談をしたりと非常に充実した時間を過ごすことができ、勇気をもらいました。
また、藤木先生が来場者に解説をする際、終始ニコニコ笑顔で話していたことも印象的で、とても癒されました。
-研究室のメンバーや藤木先生について教えてください!
石田さん:
藤木研究室のメンバーは、一人一人の個性が強く、自分の考えをしっかり持っている人が多いです。
川田さん:
藤木先生は、学生の設計を否定せず、個々の力を伸ばそうとサポートしてくださる先生です。ここまで自由な設計ができたのは、藤木先生のおかげです。
伊藤さん:
藤木先生は普段寡黙に見えますが、今回の展覧会をはじめ、ソフトボール大会や合宿での大富豪など、イベントへの熱意が高く、一緒に盛り上がってくださいます。そういったギャップも、先生の魅力の一つだと感じています。
伝統を背景に新しい挑戦へ
-藤木先生、改めて今回の展示への想いをお聞かせください。
24年前に工学院大学建築学科に環境コースが設立された際に着任しました。その後、建築学部が設立され、建築デザイン学科として一貫して環境をキーワードに建築を新しくする取り組みを続けてきました。今回の展示を通じて、「環境」というキーワードが24年間にわたり受け継がれてきたことを改めて感じています。
-これから建築を学ぶ高校生へメッセージをお願いします!
入試の面接時に受験生と話をすると、環境問題に対して意識が高い方が多くいらっしゃいます。しかし、大学に入学して学んでいくうちに、入学時の思いを忘れてしまう方も少なくありません。これからの21世紀にふさわしい建築としては、環境問題を解決しつつ、新しい建築を目指す必要があります。これは、藤木研究室が取り組んでいることであり、環境に意識のある皆さんには、ぜひ工学院大学への受験を検討していただければと思います。
▼藤木研究室の様子はInstagramでも紹介しています!ぜひご覧ください!