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工学視点のスポーツ研究 用具の革新で健康社会の実現をめざす #Action

「スポーツに関する研究」と聞いたとき、みなさんはどのような内容を思い浮かべますか?
 
アスリートの身体づくりを効率的に行う方法を研究したり、私たちの健康維持・体力向上に役立つ方法を研究したりする、「スポーツ科学」の研究をイメージした方も多いかもしれません。
 
しかし、実は工学の中にも「スポーツ工学」という分野があり、スポーツを研究対象とすることができます。人間はスポーツでどのような動きをするのか。スポーツ用具と人間との間にどのような力の作用があり、どのような道具の性能だと安全に快適に使用できるのか。スポーツ工学では、そうしたことを研究していきます。

スポーツ用具を研究する「スポーツ材料力学研究室」

工学部機械工学科 田中 克昌 准教授が主宰する「スポーツ材料力学研究室」では、スポーツ用具の性能の向上や安全性の担保、快適性の向上に焦点を当てた研究を行っています。

工学部機械工学科 田中 克昌准教授 

具体的には、スポーツを行う際に発生する、2つの物体が短時間でぶつかるような「衝撃」の局面に着目一瞬のうちに生じるこの現象を様々な機材やシミュレーション手法を用いて捉え、スポーツ用具にどのような影響があるのかを調べることで、用具の性能や安全性、使いやすさの評価につなげていこうと考えています。 
では、こうした研究は実際にどのように行われているのでしょうか。まずはこちらの動画をご覧ください。

工学・力学の見地から行う卓球ラケットの性能評価

スポーツ材料力学研究室に所属する工学部機械工学科 4年生の中濱恵達さんが説明してくれたのは、卓球のラケットとボールの間に発生する衝撃に焦点を当てた研究です。

工学部機械工学科4年 仲濱 恵達さん

実験では、卓球のラケットにボールが当たる瞬間を、1秒間に2万コマという速さで撮影が可能なハイスピードビデオカメラで撮影画像を解析し、ボールがラケットに当たった際、どのように跳ね返っていくのかを調べます。
 
研究室では、複数のラケットで実験を行い、ラバーの素材を変えることでボールにどのような速度や回転の変化が生じるのかを測定しています。

この研究で目指すのは、ラケットの性能を比較できるマップのような資料の作成です。ひとくちに卓球ラケットといっても、体格や筋力の違いから選ぶべきラケットは変わってきます。

 ラケットの性能を比較できる資料があれば、子どもからお年寄りまで、自分に最適なラケットを選ぶことができるようになります。体になじんで使いやすく、卓球を楽しめるラケットが手に入れば、きっと多くの方が卓球に親しみを感じるようになるでしょう。

 卓球のラケットとボールに関する研究の成果は、最終的に国内におけるスポーツの普及にも役立つものと考えられます。

人間の動作や筋力を測定する研究も

続いて、工学研究科 機械工学専攻 修士1年の土屋佑剛さんが紹介したのは、モーションキャプチャシステムを使って、卓球を行う際の人間の動作を測定する研究です。

工学研究科 機械工学専攻 土屋 佑剛さん

実験では、被験者にボディスーツを着用してもらい、肘、肩や腰などに「反射マーカ」をつけて複数のカメラで撮影することで、卓球ラケットをスイングする際の動作を3次元のデータとして取得します。

取得したデータを人間の体に当てはめてシミュレーションすることで、どの筋肉がどのように使われているのかを推定することが可能です。研究で得られたデータや知見は、実際に選手のラケット選定やけがのリスク減少に役立てることを目指しているといいます。 

この研究は、スポーツ選手に限らず広く一般社会で応用できると期待されています。人間の筋肉がどのように動き、筋力がどう発揮されていくのかを深く理解することで、得られた知見を福祉の分野でも活かせるかもしれません。

工学的にスポーツを研究する意義

「人生100年時代」と叫ばれて久しい中、健康寿命の延伸に注目が集まっています。長く健康でいるためには、日頃から運動をすることも大切です。しかし、日本では20歳以上の成人における週1日以上の運動・スポーツ実施率は52.3%と、日常的に運動をする人は約半数しかいないことが明らかになっています。(出典:スポーツ庁『令和4年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果について』
 
田中准教授は、主観的に評価されやすいスポーツにおいて、スポーツ工学や材料力学の知見を用いて客観的かつ科学的に道具や人間の動作の評価を行うことにより、そうした状況を変えるきっかけをつくれたらと考えています。
 
研究で蓄積されたデータをもとに、多くの方が安全で快適にスポーツに取り組める環境を整えることができれば、健康を保ったまま長生きできる社会の実現につながっていくのではないでしょうか。

▼工学院大学のYouTubeチャンネルでは、「Action!」をキーワードに、大学内の研究や課外活動の情報を発信しています。
学生や教員の活動、研究室の様子をご紹介していますので、ぜひご覧ください。

 


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