Action! #13 鉄道研究の楽しみ方
工学院大学の学生たちの活躍を動画で届ける特集、「Action!」。シリーズ第13弾は高木研究室の皆さんとお送りします。
Cast. 電気電子工学科 電気鉄道システム研究室(高木 亮教授)
京王れーるランドにて高木先生の実地授業。昭和~平成の往年の時代に活躍した車両の特徴や、魅力を説明していただきました。展示されている6000系という車両は、2011年頃まで現役でした。皆さんは乗車したことはありますか?
多くの人にとって生活手段としても身近な鉄道ですが、鉄道”研究”の醍醐味は、どのようなものでしょうか。研究室の皆さん(高木先生、鹿野さん、下田さん、西田さん)にうかがいました。
鉄道の在るべき姿を目指して
ーはじめに、鉄道研究にはどのような分野があるのでしょうか。
高木先生:
鉄道研究には様々な分野がありますが、代表的なものに「饋電システム」と「運行計画・運行管理」の研究があります。
「饋電システム」とは電力会社から送られてくる電気を変電所で変換し、架線(電車線)を通じて列車に供給する一連の電力システムのこと。「運行計画・運行管理」とは、いわゆる列車ダイヤを組み立てたり、ダイヤの乱れを回復したりすることです。
饋電システムは大量の電力を使いますが、近年は地球環境保護の観点から省エネルギー化を図る研究が盛んです。運行計画・管理においては、満員電車を解消する方法を、列車運行能力との相関を踏まえながら検討します。
他にも磁気浮上式鉄道と呼ばれるリニアモーターカーなどの研究や、開かずの踏切対策の研究なども対象になります。
―鉄道研究には色々な切り口があるのですね。研究室の皆さんは鉄道関連会社に就職予定と伺いました。これまで、どのような研究をしてきたのでしょうか。
鹿野さん:
私は非常走行(停電時、駅間に停車した電車を自走させ、乗客を駅などに避難誘導させること)のための蓄電池を研究しています。
最近、この非常走行用の畜電池を搭載した車両が登場していますが、蓄電池の重さの分、電車を走行させるエネルギーが増加することが課題です。蓄電池は、通常時の活用で省エネルギー効果が得られるため、私の研究では、車両の重量増加を蓄電池の省エネ活用によって解決することを目指しています。
下田さん:
私も鹿野君と共同で、非常走行用の蓄電池を研究しています。実在する路線データをもとに、①通常時に省エネ利用できる電池、②非常時にのみ使用する電池、③通常時と非常時で兼用できる電池 で消費電力・損失を比較シミュレーションした結果、最近導入が進む非常時用の電池よりも、通常時と非常時で兼用できる電池の方が省エネ効果が高いことが分かりました。
鉄道はそれぞれ個性があり、車両や路線、沿線それぞれ走る場所や地域にあった機能やデザイン、風景があるところが面白いです。鉄道旅行でご当地駅弁を食べながら、車窓の景色を楽しむのも魅力の一つです。
西田さん:
私は、複数列車が一斉に加速した際の電力供給への影響を研究しています。電化製品を同時に使ってブレーカーが落ちた経験がある方もいるかと思いますが、 電気鉄道も、一斉加速すると必要な電力合計が大きくなり、変電所に負荷がかかります。今回、簡易計算によって「同期制御」と呼ばれる、列車間隔を詰めて輸送力を高める制御方法を用いると、電力合計が極端に増えないことが分かりました。
鉄道には、生活で利用する、鉄道や路線維持のため尽力している、鉄道が趣味など、人それぞれの想いがあります。鉄道を通じて人々をつなぎ未来を描くことは、鉄道研究する上での使命であり魅力でもあると思います。
時代に応じ変わりゆく鉄道へ
―鉄道の利便性向上のため、さまざまな研究が行われているのですね。技術開発はこれからも進んでいくのでしょうか。
高木先生:
近年、「ATACS(無線式列車制御システム)」を日本の主要鉄道で導入することが検討されています。従来は「閉塞」と言って、列車同士がぶつからないよう一定区間に一車両だけ動かすことで調整していましたが、ATACSは前方の列車との間隔により速度調整するので、それだけ無駄なく多くの列車を走らせることができます。
また、従来は「軌道回路」といって、列車の現在位置をレールに流した電圧の変化によって把握していましたが、これも地上設備との無線通信で代替できるようになり、管理コスト削減も期待できます。
列車の輸送力を増強・改善する基本は、①列車の頻度を増やすこと ②前後の列車同士の間隔を詰めること と言われています。
実を言うと、簡単に列車頻度を増やせない一番の要因は、車内混雑で乗客の乗り降りに時間がかかってしまうことです。①の問題が解消されないままでは、②で列車間隔を詰めても効果が相殺されてしまうため、「混雑を発生させない」方法を考えることがもっとも大切です。
一例ですが、乗客が予約乗車するシステムを導入することで、車内混雑を減らし、かつ乗客をスムーズに案内できるかもしれません。実用化には技術開発が必要ですが、コロナ禍で社会の在り方が大きく変わった現在、日本の鉄道が時代に応じた面白い変化をしていくことを期待しています。
―日本の鉄道の将来を、楽しみに見守っていきたいです。貴重なお話をありがとうございました。
▶撮影協力:京王電鉄 京王れーるランド
京王線 多摩動物公園駅に隣接する鉄道保存施設・博物館。京王電鉄を支えてきた往年の名車両が屋外展示されているほか、屋内では、実際の運転台で色々な走行が体験できる運転体験や、実物のスイッチ類を触ることができ、楽しく鉄道の仕組みを学ぶことができます。
▶動画冒頭ステーションID 撮影:工学院大学鉄道研究部 佐藤匠さん
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