体温検出から居眠り運転ゼロへ #Action
居眠り運転や眠気による不注意運転を減らすことができれば、私たちを取り巻く交通環境はより安全で快適なものになるはず。コンピュータ科学科の生体データビリティ研究室では、運転時のドライバーの体温を検出し、眠くなる前に適切な刺激を与えることで、眠気を発生させない技術の開発に取り組んでいます。
安全運転の実現はもちろん、いつでも持ち運べて、適切に眠気をコントロールしてくれる小型デバイスを作りたい―――。画期的な眠気制御システムの開発を目指す研究の様子をお届けします。
Cast. コンピュータ科学科 生体データビリティ研究室(淺野 裕俊 准教授)
鼻の温度が眠気のサイン?
―生体データビリティ研究室では、どんな研究を行っているのですか?
情報学専攻 修士課程1年
髙橋実伸さん:
現在の交通事故の要因のひとつが、居眠り運転や長時間の運転によって集中力が欠けてしまったことによる不注意運転です。私たちの研究室では、このような事故を防ぐために、運転中の眠気を制御する研究を進めています。
―どのようなメカニズムで眠気を制御するのですか?
髙橋さん:
センサーによってドライバーの眠気を予測し、眠くなる前に首や額に適切な温度刺激を与えることで、眠気を発生させないようにするシステムの開発を目指しています。
研究室にあるドライブシミュレーターで被験者に実際に長時間の運転を行ってもらい、運転者の“鼻”の温度の変化を計測することで眠気を予測しようと考えています。
ドライブシミュレーターで運転する被験者は、鼻だけでなく額や首などにも皮膚温度センサーを付けています。また、暑いときにかいた汗を計測する温熱発汗計や、緊張したときなどにかいた汗を計測する精神発汗計なども使用しています。これらの情報をリアルタイムに計測し、あとで眠気の分析を行っています。
これまでの統計を見ても、鼻の温度が上がってきたあとに、眠気がやってくるということがわかっています。ただ、被験者一人ひとりが異なる人間なので、データの傾向も人によって異なります。これらのデータをまとめるのが難しいですし、人間は複雑なシステムなのだと実感します。
機械学習を活用し、60%の精度で眠気を予測
―同じく“鼻”の温度による眠気の推移を研究しているのが、コンピュータ科学科4年制の諸岡翼さんです。
コンピュータ科学科 4年
諸岡 翼さん:
サーモグラフィーカメラを使って、非接触で鼻の温度の変化を計測しています。そのデータを機械学習にかけることで、数分後に運転者の眠気がどのように推移していくのかを推定する研究をしています。
どのような処理を行えばより高精度な結果につながるのか。試行錯誤しながら機械学習のプロセスを行っていますが、なかなか思い通りにならない部分も多く、先生や先輩に相談しながら研究を進めています。現在は、眠気を予測する精度がまだ6割弱程度。この精度が8割強から9割くらいになれば、汎用的に使えるシステムになると思うので、さらに精度を高めることを目標にしています。
身に着ける眠気制御デバイスに
―この研究の先に、どのような社会や未来を思い描いていますか?
髙橋さん:
自動車に眠気制御システムが実装されれば、眠気が発生する前に運転者に通知することができ、居眠り運転などによる交通事故の防止につながります。自分が研究に関わった眠気制御システムが、交通事故のない社会に役立つとうれしいですね。
小型の眠気制御デバイスが開発できれば、いつでも持ち歩けるようなり「この作業では眠くなりたくないな」というときにも使えるはず。簡単に身に着けられて、ボタン一つで使えるような、誰に対しても効果のある眠気制御システムを作れたらいいな、と考えています。
集中したいときに、眠気が襲ってくる経験は、多くの人にあるはず……。人々の暮らしに寄り添う技術が実装される日が楽しみです。工学院大学のYouTubeチャンネルでは、Action!をキーワードに、研究活動や課外活動の様子を発信しています。