「想定外」にも強いロボット?人とロボットが信頼関係を築く未来へ #Action
公共交通やビジネスの現場から日々の暮らしまで、今や私たちの社会に欠かせない存在となったロボット。工学部機械システム工学科 モビリティシステム研究室では、次世代自動車や移動ロボット、遠隔操作システムなどの知能移動体の開発を目指しています。
混雑した状況で配達ロボットを走らせるためには? 人間が立ち入れない危険な場所で移動するロボットを造るには? 人とロボットが当たり前のように同じ空間に共存する―――。そんな未来へとつながる研究の様子をお届けします。
Cast. 機械システム工学科 モビリティシステム研究室(禹 ハンウル准教授)
想定外の状況でも活躍できるロボット
―モビリティシステム研究室が開発を目指すロボットとは、どのようなものですか?
禹先生:
皆さんにとって最も馴染みのあるロボットといえば、掃除ロボットや大学の庭の手入れしてくれる芝刈りロボットだと思います。また、工場の生産ラインで単純作業を繰り返すことで生産効率を上げるロボットも多く使われています。
このように一般的に使われているロボットは、人があまりやりたくない仕事を人間の代わりに行ってくれる存在です。しかしこれらは、決められた空間で自分に任された仕事だけをこなすものがほとんど。反対に、想定外のことが起きる環境や、自分の知らない空間で動くことが、とても苦手です。私たちが目指しているのは、突然の環境変化や想定外の事態が起きても対応できるようなロボットの開発です。
混雑時に“人を避けられる”配達ロボット
―4年生の阿部翼さんは、モビリティシステム研究室で想定外でも活躍できるロボットの研究を行っています。具体的な研究テーマを教えてください。
阿部さん:
今、配達ロボットというものが普及しつつあります。ただ、現在の配達ロボットには、混雑している状況で走らせるのが難しいという課題があります。私が研究しているのは、骨格検知によって人の姿勢を推定し、回避行動を取ることができる配達ロボットです。
―具体的には、どのような技術を用いて骨格を検知していますか?
阿部さん:
RGB-D(色〈RGB〉+奥行き〈D〉)画像によって人間の骨格の位置座標などを読み取れるAzure Kinectという機械を用いています。現段階で、骨格自体は読み取れているので、今後は機械学習を活用して、骨格から人間の行動を予測できるようにしたいです。また、人間の行動だけでなく、周囲がどのような環境なのかをロボット自身が判断できるようなプログラムの実装も必要だと思っています。
―これからの人とロボットの関わり方について、展望を教えてください。
阿部さん:
今はまだ、社会の中で人とロボットがバラバラに存在している感覚が強いと思います。これから先は、人とロボットの境目がなくなっていってほしい。たとえば、公園には人間しかいないのが普通ですが、そこにロボットが自然に溶け込めるような状態になったらうれしいですね。
放射線分布を推定し、人の安全を守る
―同じく4年生の高橋由利花さんは、放射線量の高い環境下で自律移動するロボットの研究を行っています。具体的な研究テーマを教えてください。
高橋さん:
放射線源の位置の特定によって放射線分布を推定し、自律移動するロボットの研究を行っています。具体的には、全方向コンプトンカメラというガンマ線検出器をロボットに乗せて、ガンマ線の本数やガンマ線が入ってくる角度を測定。そのデータをもとに、軌道の生成を行うロボットの開発を目指しています。この研究には先行研究があるのですが、現在はその研究をパソコン上でのシミュレーションで再現することに取り組んでいます。ガンマ線の量は放射線源の強さによって変化するので、放射線源の強さがわからないなかでどのように経路を生成するのか、ということが大きなテーマです。
―この研究テーマを選んだ理由を教えてください。
高橋さん:
もともとロボットなどの機械に興味を持ったきっかけが、小学校4年生のときに起こった東日本大震災でした。当時、発電所の中にロボットが入っていくのを知って、「現実の世界で、ロボットはこういう活躍をするのか」と驚き、機械系に興味を持ちました。だから、禹研究室に入ってこのような研究ができることが、すごくうれしいですね。現在の研究が、原子力発電所の廃炉作業などに応用されるようになったらいいな、と思っています。
人とロボットが信頼しあう世界に
―さまざまなロボット研究を行う禹研究室。では、人間とロボットが共存する理想的な世界とは、どのようなものでしょうか?
禹先生:
今までの機械というのは何かの役割があって、任された仕事をこなすために作られてきました。でも、みんなが期待するロボットというのは少し違う気がします。
ドラえもんを考えてみてください。ドラえもんはいつものび太くんと一緒に遊んでいて、働くことも家賃を払うこともありません。でも、のび太くんにとってのドラえもんは、かけがえのない無い存在です。
私が思う次世代のロボットは、任された仕事をこなすだけではなく、人間と信頼関係を築くことで、機械以上の存在になるものだと考えています。これはロボットだけの話ではなくて、自動車分野においても、車に乗っている人が完全にシステムを信頼して運転を任せられる存在にならなければなりません。人間とロボットが共存する理想的な世界は、そのようなシステムへの完全なる信頼をベースに、お互い安心していられる世界ではないかと思います。
ロボットが信頼できるパートナーになる時代。考えるだけでワクワクしますね。工学院大学のYouTubeチャンネルでは、Action!をキーワードに、研究活動や課外活動の様子を発信しています。