Action! #12 AIは嘘つき狼 人狼知能の挑戦
工学院大学の学生たちの活躍を動画でお届けする特集、「Action!」。第12弾は、noteからお送りします!
皆さんは「人狼知能」という言葉を聞いたことがありますか?2021年、人狼知能の勝率を競う世界大会で、大和研究室の高橋さんと古川さんが3位と6位に入賞しました。
動画でもプログラムが動いている様子が映っていますが、人狼知能研究や、情報学分野との関わりはどのようなものでしょうか。世界大会に参加したみなさん(大和先生、高橋さん、古川さん、八田さん)にインタビューしました!
ゲームAIで人工知能の性能を測る
―まずは、人狼と情報学分野との関わりを教えてください。
大和先生:
現在、情報学分野では人工知能(AI)に関する研究が盛んに行われています。画像認識や音声認識は急速に精度が高まり、様々な分野への応用が進んでいますが、知的な処理がどのレベルでできるかを示す指標として、ゲームAIも大いに話題になっていますね。
5年ほど前ですが、AIが囲碁チャンピオンに勝利した、というニュースを聞いたことがあるでしょうか?囲碁や将棋などは完全情報ゲームと呼ばれていて、勝負に関わる情報が全て盤面上にあり互いに公開されています。こうしたゲームでは、今ではAIは人間のトッププレイヤーよりもずっと強くなりました。
一方で人狼ゲームは不完全情報ゲームと言って、勝負に勝つためには隠された情報を推測する必要があります。プレイヤーは嘘もつきます。相手とコミュニケーションを取り、協調し、嘘をつき、嘘を推定して見抜く。
こうした不完全情報ゲームにもAI研究は広がっていて、まさにこれから発展していく分野です。実社会で人と混ざって働くロボットは、時としてこんな能力も必要になりそうですよね。これらの研究を、人狼ゲームを通し行うプロジェクトが「人狼知能」です。
―AI分野の最先端の研究として、人狼が最適なのですね。人狼をご存じない方もいるかもしれませんので、簡単に紹介します。
このような複雑なゲームをAIが行うイメージがつきませんが、実際、どのようにして動かすのでしょうか。
”最強の人狼知能”への挑戦
八田さん:
人狼知能をプレイするプログラムを「エージェント」と呼びます。参加者はそれぞれエージェントを作成し、エージェント同士で戦うことになります。
AI用に定められたプロトコル(対戦のための言語)を使い会話しますが、人間が行う人狼と同じ手順で、人狼なのに「村人だ」と嘘をついたり、「人狼ではないか?」と見破ったりします。
大会では、同じエージェントのグループでの100ゲームを1試合として4000試合、合計40万ゲームの対戦を数日かけて行い、全体の勝率を競います。画像は、世界大会で使用する対戦環境でAIが人狼ゲームを行っている様子です。
―一瞬の間にAIがたくさんの計算をしているのですね。どういうエージェントが強いのでしょうか。
古川さん:
例えば、パワープレイと呼ばれる人狼ゲーム界でよく知られた戦術(人狼の数>村人の数となる特定の状況下で、人狼側が「自分は人狼だ」とカミングアウトすること)がありますが、これを行える局面では、行わない場合に比べて行った方が勝率が高いと考えられています。
人間と同じく、人狼ゲームで勝つパターンは ①自分が強いため勝つ ②自分は弱いが仲間が強いため勝つ ③特定の役割(人狼など)が向いていて勝つ など様々ですが、どのような局面かを正しく認識すること、その局面にあった戦術を取ることが必要です。
また、当該ゲームに他にどのエージェントが参加しているのか、といった環境要因でも勝率が大きく変わるため、強いエージェントを作る研究では、局面の正確な認識や、環境要因との関係性を分析することが重要です。
高橋さん:
今回時間をかけたのは、様々な設定パラメータのエージェントを数多く作成したなかで、どれが一番強いのか、という評価でした。他にも、エージェントの行動にはいろいろなバイアス(偏り)もあって、特性上、ゲーム序盤のなにも情報が無い時に「とりあえず先頭(idが1番)のエージェントに投票する」という行動を取りやすく、この点に対策を取ったりしました。
世界大会では、今お話しした点を踏まえた戦術が功を奏したと分析しています。今後の課題は、人狼側になった場合の勝率で、実は村人陣営になったときに比べると勝率がとても低いため、村人or人狼どちらでも勝てるよう、人狼になった場合にどんな行動が勝利に繋がっているかを大量の対戦ログから分析しているところです。
人狼知能がAI研究の資産になる
―どのような環境でも勝つエージェントは、臨機応変に対応できる人間の思考回路に近いAIであると考えることもできそうですね。将来、人間とAIで人狼ゲームを楽しむこともできるのでしょうか。
大和先生:
工学院チームは今回はプロトコル部門、AI用の言語で「論理的に状況を認識して思考・勝利できるか」という部門だけで世界大会に参戦しましたが、自然言語部門という、人間の言語を使い「いかに人間らしく自然な会話ができるか」を評価する部門もあり、次はこちらにも参加しようと準備をしています。
こうした研究の積み重ねによる技術開発は、人間とAIとで人狼ゲームを楽しむことはもちろん、今後、AIが広く人間社会の人と協働する分野で応用されるための資産となることが期待されます。
―数年先、数十年先にAIとどんなやりとりができるのか、今から楽しみです。皆さん、貴重なお話をありがとうございました。
※人狼知能チームは、YouTuberのヨビノリたくみさんが工学院大学を訪問した動画、「大学の研究室がスゴい」でも特集されています。
※過去のAction!は、特設サイトで公開中!