化学の力で食品の個性を解き明かす #Action
私たちはどんな食品を“おいしい”と感じているのでしょうか?食品の”風味”は一体どこからくるものなのでしょうか?
先進工学部応用化学科 食品化学研究室では、成分分析による実験や人間の感覚を客観的に調査する官能評価を用いて、化学的に食品の機能や味を解明しています。香りや物性から“おいしさ”の秘密を研究する学生たちの姿に迫ります。
Cast. 応用化学科 食品化学研究室(飯島 陽子 教授 / 杉山 健二郎 講師)
“おいしい”を化学で解明する
―食品化学研究室では、どんな研究を行っているのですか?
4年 仲泊 実夢さん:
私たちの研究室では、食品の成分組成を、主に風味の観点から化学的手法を通じて分析しています。こうしたプロセスを通じて、食品の持つおいしさや機能を解明することが研究の目的です。
4年 眞鍋 太成さん:
一見、食品と化学は関係が薄いと思われる方も多いと思いますが、実はそうではありません。たとえば食品が放つ香りの正体は、低分子有機化合物です。私たちの研究室では、成分分析実験や官能評価(人の感覚をもとに物の特性や、人の感覚を測定する方法)を通じて、特定の香気成分が味の感じ方にどのような影響を及ぼすのかを調査しています。これらの調査により、香りが味に及ぼす影響を客観的に数値化することができるのです。
パンの風味と食感を研究
―食品化学研究室4年の仲泊さんは、大好きな「パン」の研究を行っているそう。
仲泊さん:
子供の頃からパンが好きで、今も趣味でパンを焼いています。以前から勉強の中では化学が一番得意だったこともあり、食品化学に興味を持ちました。
具体的な研究内容としては、パンにある酵素を添加したときの香気成分の変化について調べています。この酵素はパンに風味の変化をもたらすことが知られていますが、どのような成分が風味に関係しているかはまだ詳しくわかっていません。私たちが感じている食品の匂いは、ひとつの物質だけでなく複数の成分が合わさった総合的な香りで構成されています。その複雑な成分を分析し、香りが風味に影響する理由を探っています。
また、特定の酵素をパンに添加すると物性が変化することもあるので、弾力測定を通じてパンの食感の変化を調べる研究も行っています。風味も食感も“おいしさ”につながる大事な評価の点なので、その点もきちんと分析したいと考えています。
味噌の香りと味わいの関係性
―食品化学研究室4年の眞鍋さんの研究テーマは、発酵食品の味と香り。家庭料理にも欠かせない「味噌」などが研究対象です。
眞鍋さん:
私は、味噌などの発酵食品における香りと味の相互作用について研究を進めています。研究では、GC-MSという測定機器を用いて、味噌にどのような香気成分があるのかを分析しています。GC-MSを使えば、味噌に含まれる香気成分をクロマトグラムとして見ることができるので、どの香気成分が増加すれば、味にどのような変化が生まれるのかを考察することができます。
―香りと味の相互作用がより解明されていくと、私たちの食事にはどのような変化が生まれるのでしょうか。
眞鍋さん:
たとえば1gの塩を使う料理と、2gの塩を使う料理があったとします。香りと味の相互作用を活用すれば、1gの塩を使う料理の香気成分を調整することで、2gの塩を使う料理と同じような味わいを実現できれば、減塩効果が期待でき、やはり健康面でのメリットは大きいと思います。
―眞鍋さんは、卒業後に食品関係の企業で働く予定です。
眞鍋さん:
高校の頃から化学が好きで、もちろん食べることも大好き。大学に入って、化学と食品が深く関わっていることを知り、「将来は食品関係の研究をしたい」という思いから、現在の研究室を選びました。卒業後は食品関係の企業に入社し、生産技術職として食品の生産や新商品の開発を行っていく予定です。今までに学んだことが、少しでも役立つとうれしいですね。
食べることと化学が大好きな仲泊さんと眞鍋さんの活躍が、これからも楽しみです。工学院大学のYouTubeチャンネルでは、Action!をキーワードに、研究活動や課外活動の様子を発信しています。