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鉄道開業150周年の今、考えるべきこと 〜高木 亮教授(工学部)✕大内田 史郎教授 (建築学部)対談〜 後編

鉄道開業150年を記念した電気電子工学科 高木教授と建築デザイン学科 大内田教授の対談。前編では鉄道・駅の歴史中心の話題でした。後編では鉄道の未来や交通システムをテーマにお伝えします。

東京の鉄道はすべてが小さすぎる!?

―ここまで駅舎をテーマにお話を伺ってきましたが、鉄道という交通システム全般で見ると、どのような課題や未来があるでしょうか。

高木:大きな課題として、日本の鉄道、特に東京周辺については駅の数も路線数もプラットホームの本数も少ないと思います。都市の規模に比べて、いろいろなものが小さすぎる。この点について、よく考えていかなければいけません。

大内田:たしかに海外の大都市を見ると、ロンドンにもパリにもニューヨークにも、都市を象徴するような大きなターミナル駅がありますね。

高木:そうですね。パリの場合、30以上のプラットホームを備える北駅があり、その徒歩圏にやはり30ほどのプラットホームを有する東駅もある。一方、関東で最大の私鉄のターミナル(終点)駅といえば、10両編成が6本停まれる西武球場前駅なのです。新宿駅の場合でも、小田急線は5線、京王線も新線新宿を含めて5線しかありません。1日の鉄道輸送量を比べると、あまりにも小さすぎます。本来なら、時代とともに大規模な投資を行いながら鉄道網を拡張すべきだったのですが、信頼性の高い車両を使い乗客に混雑などの“我慢”を強いることでなんとか回してきた。だから、欧米の大都市と比べて快適性が低いし、小さなトラブルがすぐ大きな輸送の混乱に発展してしまいます。

大内田:その問題は都市の構造とも密接に関わっていますね。たとえばドイツの大都市の場合、都市間交通の拠点となるハウプトバーンホフ(中央駅)が中心地から少し離れた場所にあって、そこから市内交通の要となるトラムが張り巡らされていることが多い。日本の大都市は、そのあたりがきちんと整理されていない部分もありますよね。

高木:そうですね。東京の場合、長距離を結ぶ新幹線などの都市間交通と、中距離を走るメインラインの鉄道、市内交通を担う地下鉄の役割が混ざってしまっています。都市内をサービスする地下鉄でもある程度郊外にも行けますし、中距離のメインラインに乗ってすぐ近くの駅に行くこともできる。一見便利なようですが、その分非効率になることも多いです。たとえば、英国のロンドン〜レディング間の都市間列車は約60キロの距離をおよそ30分で結ぶのに対して、日本のつくばエクスプレスは秋葉原〜つくば間の約60キロに45分かかります。つくばエクスプレスは日本では比較的スピードの速い路線ですが、それでもこれだけの差があるんです。

大内田:線路やプラットホームを増やせれば、その分だけ特急列車も走らせやすくなるし、乗客も混雑に我慢しなくていいというわけですね。

高木:東京湾アクアラインが開通したときに車道だけでなく鉄道も通しておけば、木更津など内房の街がより大きく発展した可能性があると思います。これはもったいないことです。このような大規模プロジェクトは20年〜30年かかるものですし、短期的な経営だけを考えれば容易に決断できるものではないかもしれません。しかし、この先も鉄道が力を持っていくためには、このような投資は必要かもしれません。


―コロナ禍によって乗客は減っていると思いますが、その影響はどのようにお考えでしょうか。

高木:コロナ禍によって1〜2割ほど乗客が減ったと言われています。ただそれは、1〜2割“しか”減っていないとも取れる。人々の生活スタイルが変わったタイミングだからこそ、大きな変革に踏み切るチャンスだと思います。たとえば、東京では多くの人が座れる2階建ての車両の導入が過去に何度も検討されていますが「混雑時の乗り降りに時間がかかる」という理由で実現しなかった。でも、今のタイミングならできるかもしれませんね。

大内田:コロナ禍による生活スタイルの変化は、駅構内の空間の設計にも影響してくると思います。最近の駅を見ていると、みどりの窓口が閉まっていることが多いですが、あの空間が単なる商業施設に置き換わるのではなく、なにか良い方法で使われると良いなあと感じますね。また、より長期的な視野で見れば、スマートフォンやセンシング技術の進化によって、券売機や改札のあり方なども変わってくると思います。

―これからも鉄道は日本の主要な交通手段であり続けるでしょうか。

高木:もともと鉄道には、非常に強力な“力”があります。私自身の鉄道の原風景は1970年代の営団地下鉄東西線だと思っていますが、当時の駅や電車はデザインが画一的で特徴が無く、今よりも混雑していました。ただ、それでも人々の生活のために鉄道は無くてはならない存在だったのです。
その“力”は、今後も大都市では継続するでしょう。一方、地方都市の場合は、ケースバイケースですね。これから宇都宮ライトレールが開通しますが、この事例が試金石になると考えています。ただし、乗客に“我慢”を強いるような姿勢がこのまま続けば、鉄道が“力”を持ち続けられない可能性もあります。「座れること」や「待たないこと」「効率的に移動できること」。やはり“まともに人を運ぶ”ことに、あらためて注力する必要があると思います。

大内田:自動運転車の普及は鉄道にどのような影響を及ぼすでしょうか。

高木:世界では、鉄道には手放してはいけない3つの分野があると言われています。

1つ目が重量低速貨物輸送。水路代わりの大陸横断鉄道など,日本では見られない形態です。
2つ目が、都市間高速旅客輸送。これは新幹線などが担っています。
3つ目が都市内旅客輸送。

 この最後の点が、車に取って替わられる可能性が出てきました。たとえば、自動運転車専用レーンや予約制の高速道路などが普及すれば、鉄道よりも車のほうが速く都市内を移動できるようになることは十分にあり得る。今も新宿から羽田空港へのアクセスはバスの方が速いぐらいですからね。ですから、これらの仕組みが社会実装される前に、より利便性の高い鉄道網を構築することが必要です。これからの10年程度が勝負だと思います。

大内田:少し話は変わりますが、デザイン的な視点で考えると「乗りたくなる」ような車両が増えると鉄道の魅力につながるのではないでしょうか。インダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治さんが手掛けるJR九州の車両や、建築家の妹島和世さんがデザイン監修した西武鉄道のLaview、インダストリアルデザイナーの奥山清行さんが手掛けた東武鉄道のリバティなど、魅力的な車両はすでにたくさんあります。美しい駅舎だけでなく、さまざまな車両の登場を期待しています。

高木:デザイナーを含めて、さまざまなプレイヤーが関わっていくことも鉄道の発展には欠かせないと思います。私が長く研究生活を送ったイギリスでは、大学に巨大な教育・研究拠点がつくられ,そこを中心に強力な産官学連携の構築が進んでいます。日本でも、そのような仕組みを構築することができると良いですね。いずれにしても、鉄道開業150周年の今は、鉄道が変革するための大きなチャンス。50年、100年先を見据えたビジョンが必要になってくると思います。

日本での鉄道開業150年の節目に、鉄道に関連する研究を行っている高木教授と大内田教授に話を伺いました。コロナ禍を経て、変化する社会情勢に合わせて日本の鉄道が未来に向けてどのように進化していくのか、建設的な対談となりました。鉄道開業200年を迎えるのは2072年!日本の鉄道はどのような姿となっているのでしょうか。
未来の鉄道をつくるのは在学生やこれから大学で学ぶあなたかもしれません。


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