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システム制御技術で叶える交通システムのスマート化

赤信号があれば停止し、道路が混雑していれば低速で走り、時に渋滞に巻き込まれることもある。自動車を運転していれば当たり前のように起きることが、実は時間のロスだけでなく、燃費効率や二酸化炭素の排出量にも悪影響を及ぼしています。いつでもスムーズに走ることができれば、ドライバーにも地球にも優しい運転につながるのに……。そんな課題に対して「制御」という技術を用いて取り組むのが、工学部電気電子工学科の向井正和教授です。

工学部 電気電子工学科 自動運転制御研究室
向井 正和 教授
研究キーワード:制御工学/自動車工学/制御応用/バッテリーシステム

低炭素社会の実現にも貢献する自動車制御の技術

――「自動車の交通システムを制御する」と聞いてもなかなかイメージがしづらいですが、どういう研究なのでしょうか。

上手なドライバーの運転を想像するとわかりやすいでしょう。停止する時のブレーキや加速・減速がスムーズで、坂道などの地形に応じた運転もできます。走り慣れた道ならば信号機の位置までも予測して運転できるかもしれない。無駄のない運転は燃費の効率化にもつながり、意識はしていないでしょうが、二酸化炭素の排出量も抑えられます。このような運転を支援するのが1台の自動車で考えた場合の自動車制御です。最近ではドライバーをサポートする機能として、自動車に備え付けられるものも増えてきました。
一方で「交通システムを制御する」とは、自動車を複数台数の集合として、道路を走る自動車全体を制御することで、交通の流れをスムーズにし、交通網全体で効率的な走りを実現するものです。信号機の情報を活用した自動車の効率化・安全化というテーマでは、信号機に合わせて自動運転をコントロールすることで交差点の流れをスムーズにする技術開発に挑んでいます。技術が進化すれば、未来にはいずれ信号機が必要なくなるかもしれません。この自動車単体での制御と、自動車群の制御の両方をターゲットとして研究に取り組んでいます。

――制御によって得られるメリットはわかりましたが、では具体的にはどのように技術を開発するのですか。

私たちはモデル予測制御という方法を用いており、まず制御対象となる自動車の動きを運動方程式などの数式で表すモデル化を行います。車は基本的にどう動くのか、前の自動車が近づいたらどうするのか、どうすれば止まり、どうすれば走り出すのか、といった挙動を数式で表現するのです。
もちろん自動車の機能やその日の天候など、交通状況に関わる要素はさまざまですが、交通システムの“流れ”を制御対象にする場合は、“流れ”に関わる要素を抽出してシンプルな数式で表します。自分が制御しようとしているものを理解し、確実にモデル化することが最初の取り組みになります。

――そこから数式上で最適解を導き出して、実際の制御方法に反映していくと。

計算機シミュレーター上で検証する形になりますが、自動車が狙った通りの挙動を示して、制御の効果が示せた時には大きな達成感があります。それは制御という分野の、いちばんのやりがいかもしれません。
そのためには最初の運動方程式も、さまざまな論理を組み合わせた制御系の設計も、シミュレーターの正確性も、すべて揃うことが求められます。何度もチェックを繰り返す丁寧な作業の積み重ねが、この研究で求められるポイントです。すでに研究段階ではシンプルな交差点で車の流れをスムーズにする制御技術は完成していて、今後は実社会に近い、複雑な道路を想定した研究を行っていく計画です。

産学連携の研究が新たな着想を得るための刺激に

前に走る車との距離を一定に保ちながら走る車間距離制御装置や、周囲の環境をセンシングして走行を補助するハンドル操作サポートなど、ここ十数年で自動車には数々の先進的な機能が加えられてきました。向井教授も、自らの研究成果が自動車や実際の交通システムに実装されることを目標として掲げており、自動車メーカーをはじめとした産学連携の研究に精力的に取り組んでいます。

――そもそも交通システムの制御に着目したきっかけは何だったのでしょうか。

制御という学問との出合いは学部3年次の時の授業でした。コントローラーの設計次第で自分の思い通りに物を動かせる制御ならではの面白さに惹かれたことがきっかけです。
その後、大学院博士課程を修了して、自動車会社研究所から大学教授になられた先生の研究室で働きました。そこで交通システム制御のやりがいや社会貢献性の高さを知り、自らのテーマとして追求することになりました。

――現在もご自身の研究と並行して、産学連携による研究を多く進められています。

解決すべき課題を具体的に提示されるのが、産学連携における研究です。交通システムの研究では、信号機が警察の管轄下にあるなど社会実装が難しい部分ももちろんあります。しかし、自動車メーカーなどはそういった状況下でも、解決の糸口を見つけて、自動車や交通システムの改善に取り組んでいます。ニーズを掴み、着想やアイデアの切り口を作る機会として重要で、研究者として勉強になっています。
また産学連携の研究では工学だけでなく、経済学、環境学、情報工学といった他分野の研究者や技術者との連携が求められます。他分野との協働は困難もありますが、私自身の知識を培い、視野を広げる機会になっています。

――産学連携の研究が、刺激を得られる舞台になっていると。

新しい着想から、近年ではドライバー側をモニタリングし、人間が自動運転やアシスト機能の挙動に対して、どのような反応を示すのか、という研究も進めています。自動車がすべて自動運転になれば交通システムの制御はもっとシンプルに考えられますが、運転しているのは生身の人間。その点が自動車を制御する難しさです。モニタリングを通してドライバーを自動車システムのモデルに組み込むことができれば、より高度な交通システムの制御に近づけられると考えています。

――その先にはいつか、研究した成果が社会実装される日がくることになります。

交通インフラの改善をめざす研究は、現場での実証実験を行うことが簡単ではなく、行政機関や地域との連携など障壁が多いことも事実です。それでも新たな技術を開発し、その利便性をメッセージとして社会に伝えていくことで、少しずつ社会の意識を変えられるかもしれない。企業や他領域の研究者との連携を続けながら、いずれ開発した技術が社会で形になる日を期待しています。